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「え? 良くは無いと思いますけど」
(これのどこが良いっていうの)
訝しんで目を眇めると、高い位置にある顔はすっと真剣な表情に戻った。セントラル制御の空調は七時の段階でオフとなっており、事務所内は徐々に暑くなってきている。
佐々木さんは大きな手で顔を隠すようにして、眼鏡のブリッジを押し上げた。
「タイミング良くない?」
「はい」
噛み締めるように頷くと、佐々木さんは「そうか」と小さく呟いてううんと唸った。そしてそのままくるりと背中を向け、歩いて行ってしまう。
(何? 何だったの、一体)
大股で出入り口に消えていく長身の背中を見送った。男は馬鹿な奴が多いけれど、仕事が出来る男だって、やっぱりどこかおかしいのかもしれない。
――このプロジェクトメンバーの名前言ってみろ。
(禅問答?)
私は首を振って数字の確認作業に戻った。ディスプレイに広がるデータに、意図せずため息が零れる。
(んもう。佐々木さんの所為でどこまで確認したか分からなくなったじゃない)
私は画面をスクロールし、また頭から確認することにした。
(ええと、月曜日は……)
「お先に失礼しまーす」
遠くの島から挨拶が聞こえてくる。折角の週末だ。私も早く帰ろう。
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