枯れ女

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 途中で途切れた集中力はそう簡単には戻ってこず、じわじわと室温は上がってくるしで、私は早々に今日の作業に見切りを付けた。パソコンを落とし、荷物を纏め「お先に失礼します」と事務所を後にする。白い廊下の壁に一定間隔に並ぶ窓の外はもう真っ暗で、朝から降っている雨がまだガラスを濡らしていた。 (雨か。嫌だな)  一週間の締め括りは晴れが良い。嫌なことも上手くいかなかったことも全部、スカッと忘れることが出来るから。それを言ったら始まりの月曜日も晴れが良いのだけれど……兎に角雨は嫌い。  チン。  五階で止まっていたエレベーターが着くのを待って乗り込んだ。たった三階の、しかも下りだから普段は階段を使うのだけれど、利用者の少ないこの時間は待ち時間も少ないので乗った方がお得。  しかしエレベーターはワンフロア下りたところで再びドアを開けた。 「あ」 「あ。お疲れ様」  乗り込んで来たのは佐々木さんだった。タカアシガニみたいな長い脚をしているんだから、それこそ歩けば良いのにと思う。  佐々木さんが隣に並ぶとドアが閉まった。
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