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「今日の仕事は終わったのか?」
小さな箱の中に低い声が響く。
「疲れたんで止めました」
あなたの所為でもあるんですよ、という言葉は飲み込んだ。そうか、と呟いた佐々木さんは顎を上げ回数表示を見つめている。
(たったワンフロアだけれど)
「佐々木……」「羽賀……」
場を繋ごうと口を開くと、またしてもタイミングよく声が重なった。私が隣を見上げると佐々木さんも私の顔を見下ろしている。
「…………」「…………」
チン。
エレベーターのドアが開き、私たちは無言で外に出た。そして立ち止まりもう一度顔を見合わせる。
「ぷは!」
佐々木さんが堪らないといった体で吹き出した。私もマスクの中で口が緩む。
「くくく。また被った……」
口元にこぶしを当てた佐々木さんは、腰を曲げて肩を揺らした。
「ここまでくるとちょっと怖いですね。ふふふ」
私も釣られて笑う。男の人とこんなくだらないことで笑えるなんて、自分はよほど疲れているに違いない。
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