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「どうぞ」
「お邪魔します」
出口に横付けされた黒いセダンの助手席に乗り込む。きっちりと細かい佐々木さんらしく車の中は綺麗に片付いていて、唯一インテリアらしいものと言えば赤いカバーの掛けられたボックスティッシュと、ワイパーのレバーにぶら下がっている交通安全のお守りくらいだった。
「エアコン、まだ効いてないけど我慢してくれ。すぐに効く」
「はい」
鞄と傘を握り締めながら、シートベルトを締める。運転席には黒縁眼鏡の横顔があった。
「家どっち?」
「バイパスの方です、南の。Y町」
「ああ。なんか大きな犬の看板がある……」
「そうです。そのペットショップのすぐそばなので、そこまで行って頂けると助かります」
「分かった」
セダンは静かに走り出す。黒光りするアスファルトの上、テールランプの赤を飲み込む水溜まりを軽快に切って走る。
ワイパーがカクンカクンと一定のリズムを刻んだ。
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