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「羽賀はさ」
車内に低音が響く。
「リーダーやるの初めて?」
フロントガラスに貼り付いてはワイパーに飛ばされる雨粒をぼんやりと眺めながら「はい」と答えた。
「データの間違いが多くてすみません。計画も遅れてますし」
「企画部、誰か休んでるんだったか」
「そうです。プロジェクトが決まったすぐ後から会田さんが。お子さんの通う幼稚園でコロナが出たみたいで長期なんです」
そうか、と相槌が入る。
「でもそれは言い訳にしかなりませんから。すみません。お忙しいところ申し訳ないんですけれど、来週にはまた顔を合わせて……」
「待てまて。落ち着けって」
黄色に変わった信号に合わせてセダンのスピードが落ちる。前の車のテールランプが強く光って、私たちの乗るそれも停車した。
眼鏡の顔がこちらを向く。
「あんま気負い過ぎんな」
(気負ってなんか……)
鞄を握る手に力が入った。硬い革のそれがギチリと手のひらに食い込む。
佐々木さんはフッと目を細めて「お前さ」と独り言みたいに呟いた。
「男嫌いだろ」
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