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「だからこいつすげぇなって思った。女だからってフィルターかけちゃいけない奴だって」
「当たり前です。仕事に男も女も関係ありません」
堪らず口を挟むと、「その通りだよ」と笑った。
「絶対に泣き言も言わねぇし、全部自分でやろうとするし。負けず嫌いな奴だなって」
「リーダーですから。私がしっかりしないと皆が付いてきません」
褒められてるのか貶されてるのか良く判らなくて、マスクを掛けた耳が熱を持つ。佐々木さんの低音ボイスは――小言でなければ――耳に心地良い。
赤信号で再び車が止まった。週末の所為か、はたまた雨という天気の所為か、道路はそれなりに混んでいて進みが悪い。
佐々木さんは「そこだよ」と言った。
「確かにリーダーにはしっかりしてもらわなきゃならない。下はしっかりしたリーダーに付いていきたいからな。けどな、プロジェクトメンバーはリーダーの命令を聞くだけのコマか? 違うだろ」
眼鏡の顔がこちらを向いた。レンズの奥の茶色の瞳が優しく細められている。
「一人で全部抱え込むな。きちんとメンバーを頼れ」
――このプロジェクトメンバーの名前言ってみろ。
――分かってるじゃないか。
あの禅問答はこのことを伝える為だったのだろうか。
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