嘘つきなY

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「お、みんなもう集まってる」 嬉しそうな湯川の声に、前方の西棟を見ると受付には既に数組の列が出来ていた。 「湯川、なんで嬉しそうなわけ?」 「さぁ、何でだろうねぇ」 不敵な笑みを浮かべるだけで、湯川は澄ました顔で列の最後尾に歩いていく。 「なんか……怪しい」 こういう顔をする時の湯川は、ちょっと苦手だ。 「怪しい? どこが?」 「全部が」 「失礼だなぁ」   列がゆっくりと進む中、左隣でカラカラ笑う湯川が俺の腕を引き寄せた。 「ほら、ペアが貼り出されてる」 湯川が指差した受付の隣に、決定されたペアの名前がホワイトボードに貼り出されていた。 「な、なんっ、なんで!?」 そのペアに俺は固まった。 「俺とゆかちん、ペアだね。すごい偶然」 今年のペアの選出方法はどうやらイニシャルのようだった。 そして俺は何故かイニシャル『Y』のペアとして貼り出されている。もちろん、イニシャルにYなんてない。 「湯川っ! お前、やっぱり裏で手回しただろ!」 「ん? 今年のお化け屋敷実行委員ってだけで俺を疑うなんて失礼だな」 「は? じっ、実行委員なんて聴いてない!」 「ゆかちんには言ってないから」 切れ長の目元が、意味深にすっと細められる。伸ばされた長い指先が、目にかかる俺の前髪を弄ぶようにつまんだ。
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