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「なーなー、ゆかちん」
同じゼミになった湯川は、なぜか俺のことを『ゆかちん』なんて呼び方をする。
『ゆ』も『か』も入っていない俺の名前をどう間違えばそうなるのか、さっぱり不明だけど。
「あのさ、何回も言うけど俺の名前は悠佳。いい加減、覚えろよ。同じゼミになってもう半年だろ」
「んー、そう言われても俺の中でゆかちんはゆかちんなんだよなぁ」
「何だよそれ」
湯川はいつもこんな感じで、マイペースというか掴みどころが無いというか。
「まあまあ、細かいことは気にしないの。ほら、ペアの抽選行こう。ギリギリだと混むしさ」
しれっと俺の腕を掴み、湯川が向かう先は西棟の受付ブース。
学祭最終日の今日、夕方から西棟全館が巨大なお化け屋敷と化す。
三日間開催される学祭の中でも一際盛り上がるイベントで、最も早いタイムでゴール出来たペアには、学長のポケットマネーから、かの有名なビアンキのクロスバイクやらスマートウォッチやら、豪華な賞が進呈されるのだ。
更に上位5組が入っているゼミのグループは学食の日替わり定食が一ヶ月無料という特典付きとあって、参加者を応援するためグラウンドにはお化け屋敷内を中継するブースまで設置されている。
毎年応募者が殺到するため、各学年から抽選で60人が選ばれるわけだけど、幸運なことに俺と湯川も選ばれたうちの一人だ。
「誰とペアになるかで勝敗が変わるらしいな」
「ゆかちんは誰とペアだろうね」
「怖がりじゃなければ、俺は誰だって構わないけど」
「ネックは今年のルールかあ」
「ルール、なぁ……」
お化け屋敷には、毎年妙な条件下でゴールしなければならないルールがある。
昨年度は二人三脚、だったか。今年も簡単にゴール出来ないように、意味不明なルールが提示されるに決まっている。
おまけにペアの相手も、当日に決定されるから相性の良い奴じゃなければ最悪だ。
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