6.うるうる涙、甘く蕩けて

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「う、うるう年!だな」 「……えっ?」  アイツは突然、そんな事を言い出した。  困惑する俺は、振り返ってアイツを見る。窓際のアイツは空の闇を背負っていて、濃いホットチョコみたいな色合いになっていた。 「――なあ、お前さ。俺のこと、嫌い?」 「――え」  一瞬、何を言われたかピンと来なかった。  その意味を咀嚼する頃には、カカオ100%な苦みが全身を包んでいて、目がちかちかした。指先から力が抜けて、財布が地面に落ちる。 「な、なんで、そう?」 「いや。なんか、友チョコ?俺にだけなかったから」 「あっ……」  、あれは本当だったらしい。  寂しそうなアイツの顔は初めてで、その冷たい、興味を持っていないような表情がひどく脆く見えた。  傷つけてしまったのか、俺が、アイツを。  俺は、ええいままよとリュックを漁り、角が凹んだハートのラッピングのチョコをアイツに突き付けた。窓辺からずり落ちたアイツは、きょとん、と疑問符を浮かべている。   「すっ!好き!だから!嫌い、じゃないから……っ!!」 「……えっ」  そういう事じゃないなぁ、と思いつつ、止まらない。 「俺、お前が好きなんだっ。こっ、こう言う意味で!」  ハートを指差しながら言う。  時間が止まる。頬が焼ける。鼓動は熊蜂の飛行だ。 「……それ、本気?」  疑うような、とても冷たいアイツの声。  顔なんて、見られなくて、早くも涙声で俺は言った。 「そうだよっ。本気!」  アイツの声はなく、俯いた俺には、ガサガサしか聞こえない。    鼓動か、耳鳴りか、と思っていたら、どちらでもなかった。 「……んむっ?」 「はぁ、んっ」 「……んぅ、ん、ああぅ」 「ん、くっ。はぁ――」  思考が、停止した。  アイツは、キスしてきたのだ。しかも、口の中がトロトロなチョコだらけな状態で。  甘くて、気持ちよくて、トロトロで、ザラザラで。  荒い吐息が鼻の下に掛かって、下半身が熱くなるのが分かった。唾液の他に甘ったるいチョコの波が絡まって、粘着質な音がする。 「――これが、俺の答え」 「……………………………」  恥ずかしそうに言うアイツの声は、今までよりもずっと、温かい。 「……ひゃむ」  情けない声を、また唇で塞がれる。  これが俺の、初めての人との初めてのキスだった。 「……甘い」 ――終わり
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