1.2×7=?

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 俺が初めてアイツに会ったのは、去年の秋だ。  会ったのはというより、まともに喋ったのはだったか。  卓球部の俺とバドミントン部のアイツは、同じクラスだったけれど、高校一年の秋になるまでほとんど会話が無かった。  卓球とバドミントン。  似ているようで、なんとなく似ていない。  ホットチョコとココアみたいなものだろうか、と考えて、コートに台が含まれている卓球とコートに台が無いバドを比べてみた。  卓球台の前に立って、バドミントンのラケットを構え、羽を打つ。軽快な音を立てて飛んだ羽は、横回転しながら見事に相手コートに到達したが、コケッ、と間抜けに横たわった。卓球台の白線の上に落下していて、串に刺さっているようにも見えた。  なるほど、もう少し違う。  ともあれ、秋に行われる文化祭でアイツと二人で道具係をやった事で、意外にも話が合う事が分かって、仲良くなった。  百六十センチちょっとの俺よりも十センチくらい高いのに、横に並ぶといつも顔が見えた。俺が、アイツの顔ばかり見ていたからだろう。アイツはツンツンした髪で、あと数センチは高くなる。  アイツが、特別見てくれが良かったわけではなく、俺が見つめていただけ。  頬に小さく落ちるほくろは、放課後一緒に帰る時は夕日に染まった街の暗がりで溶けて見えなくなる。影の差すアイツの、興味なさそうに話を聞いている時の口許が好きだった。  俺は、そんな素っ気無いアイツと、仲良くなった気でいたんだ。  それが、ただのだったかもしれないと思うのに、そう多くの時間はかからなかった。
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