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3.星5アイテム、「ハート」
事情を聴くと、アイツは忘れ物を取りに戻ってきていたらしい。
つまり、ここで会ったのは全くの偶然だった。百年目、とかではないみたいだ。
「かっ、帰る?」
「……うん」
やけに緊張して上擦った声を出してしまった俺は、しまったと滲み出る手汗をポケットに突っ込んで誤魔化して、歩き出した。
この高校は最寄り駅が一つだけで、バスもない十数分の道のりだ。自転車組と違って、徒歩電車組はこの往復がなかなかどうして長く感じた。
けれど、その長さも、アイツとの時間なら少し、楽しい。
「そんでさ、今日部活だって忘れてて、めっちゃいじられちゃってさ」
「へぇ」
「俺がラーメン行こうとしてたから部活の友達もラーメン行きたくなったみたいで、でもその俺がめんどくなって行くのやめちゃってさ、それで部活の友達だけで行ったんだよ」
「……へぇ」
会話の間隙を埋めるみたいに矢継ぎ早に言葉を紡ぐ俺に対して、アイツはいつもの興味無さげな表情で、前を向いていた。前みたいにアイツの顔を凝視、なんて出来なくて、ちらちら見る。
口許はずっと、静かだ。
「で、電車こっちだっけ」
「うん。そう」
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