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「……明日、とか。また、一緒に帰ろう」
「えっ」
アイツはそれだけ言うと、早足に電車から降りてしまう。
扉が閉まる瞬間、驚いてアイツが出ていった方を見たままだった俺は、学生服の袖に半分隠れた手が、ぴょこっ、と手を振っているのを見つけた。寒さに震えているような小さな「ばいばい」で、俺は直ぐに振り返せない。
「ぇドアが、閉まりまぁす。ぁ駆け込み乗車ぅはおやめくだいぃ、ドゥアが、閉まりまぁす」
癖のある駅員さんの声が終わるころにようやく片手を上げたが、既に電車が動いた後だった。
「素直じゃ、ないな」
苦笑しながら、緩む頬が恥ずかしくなって、周りを気にして俯いた。
「……あっ」
その時だ。
俺が、どうしてアイツにここまでこだわるのか、その理由が分かったのは。
「……ハート、マーク?」
手持無沙汰あそばせ、リュックさん。
グレーのリュックの黒い肩紐は、ぎこちないハートの形に遊ばれていた。
アイツとの間に耐えられず、無意識にハートマークを量産していたのだろうか、と気が付いた時、心臓が口から飛び出るかと思った。
「俺――」
ひょっとして、アイツの事、好きだったのか。
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