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4.This Is Me.
意識しだしてからは早い。
また一緒に帰るようになってもどこか距離のある冷たさのアイツを、もうずっと直視できないまま季節が一つ過ぎてしまった。
「今日、帰れる?」
「あっ、えっと……」
アイツは朝学校に来ると、テコテコと俺の机までやってきて、話ついでに最後、そう呟いていく。
一緒に帰れる日は、水曜日だ。卓球部もバドミントン部もたまたま休みが被っている。バドミントン部は水曜日は自主練日で近くの公共の体育館で練習するらしいが、しばらく前からアイツはそれに行っていない。
「自主練はいいの?」
「……行っても、アイツらあんま練習しないから」
以前そう聞くと、アイツは手でスマホを象って、シュッ、となぞった。
ゲームの協力プレイが、今流行なのだとか。
そんなこんなな水曜日、俺はしどろもどろ、
「きっ、今日は、帰れないっ。ご、ごめん」
「そっか。いいんだ」
そう、謝った。
明日は、バレンタイン。友チョコに紛れて、アイツに本命を渡してしまう作戦。
幾度も考えた。男である俺が、男であるアイツを好きになること、バレンタインにチョコを渡すこと。それが何を意味しているのか、あるいはどんな意味を以て他の人に受け入れられるのか。
そんな時、あるミュージカル映画を観た。
借りてきたものを家で観た。夢中になっているうちに冷めたホットチョコをちびちびやりながら観た。映画の中では、個性豊かな登場人物が逆境と世間からの評価にめげずに自分を貫いて栄光を掴む、まさに最後のショーが行われていた。
ふと気が付けば、手に持っていたホットチョコは噴水のように舞い上がり、二羽の鳥へと変化した。甘そうな鳥たちは、仲睦まじく部屋中を飛び回り、その羽ばたきで俺の引き攣るような痛みに押しつぶされかけた想いにチョコ色の光りを照らした。
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