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結局、岡崎くんには、配信本番日程は伝えなかった。
仲良くなればなるほど、「演歌」というジャンルに偏見を持たれたらどうしようと思って、言い出せなかった。
「演歌歌手の安芸野もみじ」ごと好きになって欲しいのに、自分で自分に壁を作ってることはわかってる。でもそれを飛び越える自信がない。
いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
安芸野もみじの公式ホームページでもSNSでも宣伝したし、あと1時間後には配信を始めるのだ。
私は、安芸野もみじのトレードマークである着物を着て気合を入れた。これは、一つのステージだ。六〇分間の配信を精いっぱい頑張る!
パソコンを立ち上げ、配信ソフトを立ち上げ、音声の入力、カメラの表示。
岡崎くんに教わったことを一つずつ、一つずつ。
ん?カメラが映らない。
なんで?なんで?何度も一人でも練習したし、岡崎くんとも練習した。何にも変えてない。
なのにどうして、カメラが映らないの?
そうこうしている間に、配信予定時間が迫っている。
迷ってる時間はない。私はスマホの通話ボタンを押した。
「岡崎くん、助けて」
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