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江藤アスカは妹想いである。
鋭い瞳と、スタイリッシュにライダースーツを着こなし、金髪のロングにしている様子ではそう思えないが、事実としてそうなのである。
身体はスレンダーで、しかし、絶妙なプロポーションバランスであった。
妹が熱を出して動けないらしいことを聞いて、直ちにバイクに乗り込んだはいいものの、怪獣騒ぎや隕石騒ぎのせいで通れなくなっていた。
しかし、江戸っ子気質のアスカだったものだから、
「うるせえ、通せ!」
と言って自衛隊をバイクで追い散らした後に、怪獣を避けるようにバイクを走らせていた。怪獣は遥か向こう側。怪獣が蹂躙した街並は廃墟同然。車が散乱し、ビルは崩れ落ちている。
バイクは舵取りが困難だったし、時々道が分からなくなることもあった。
町が原型を留めていない上に、人の動きも無いものだから、それが感覚を遮断しているのだ。
「畜生、由香、待ってろよ!」
彼女のたった一人の肉親。
きっと今、怯えているに違いない。
3
はげ頭のどこにでもいそうな中年の男が車によりかかってしおれていた。
田中太郎は勤続二十五年のタクシー運転手だが、今までトラブルなしに客を送り届けたことが無い。
大物政治家ともめたことがあり、その時は首を覚悟したが、かろうじてつなぎ止められているのは、ひとえに彼の勤める会社が良い会社だからであろう。
今日もきっと同じだと諦め切って項垂れていた。
時間を見ると、まだ五時にもなっていない。そもそも、夜になれば更に人でごった返すはずだったが……。
何かあったのだろうか、そう言えばここ数日ニュースなどを確認していなかった。
「おい、この車は動くのか?」
おかしなコスプレ野郎以外、誰もいなくなっている。
ここは、某区近郊の道路、秋葉原ではない。
しかし、外国のコスプレイヤーがここにいるということは、何かイベントがあるのだろうか。
それにしても、作り物のように整った顔の男である。染色でない鮮やかな金髪と、透き通った青色の瞳。
背丈は高く、強靭そうな身体をしていた。
「あ、はあ、動きますが」
滑らかなしゃべり方からするに日本にいるのは長そうだが。
「よし、俺の言う通りに車を走らせろ。今から宝珠を探しに行く」
「ほうじゅ?」
「宝珠とは、魔力が薄いこの世界でも勇者が戦えるように作られた宝物だ。一つはここにある」
勇者はそう言って青い球のようなものを懐から出した。眩く輝いている。
「もう一つはここに召還されると同時に、無くしてしまった。近くにあるはずだが」
ゲーム脳とか言う奴だろうか……。
田中太郎はこの国の行く末を憂慮していた。
「仕事だ。貴様至上最高のな」
「最高の仕事ですか?」
そのワードにはとても心惹かれた。
田中太郎は何とはなしにうなずいたのだった。
現在の状況など、彼の頭には文字通り存在しなかったのである。
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