走れ走れ走れ!

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 ぎゅるるるるるるるるるるぅ!  超特急で飛ばしたバイクが進行方向に逆らって止まる音は強烈だった。エンジンが壊れるのではないかと言うほどの挙動でバイクがドリフトする。そうして、子供用の靴を探すのだ。 「誰か、誰かいるの? 助けに来たよ!」  バイクから降りて自分の鼓膜さえもびりびり来るほどの大声を出した。がれきの山が前方にある。向こう側には誰もいないらしかった。自衛隊はもう撤収したのだろうか。アスカは胸に手を置いて、目を閉じた。  少女の潰れた身体を想像しかけて、頭を振る。  視線の端に、小さい靴を見つけた。  かぶりつくように靴の方へと飛びつくと、愕然と肩を落としてしまった。 「ラベルついてんじゃないか、あの馬鹿!」  そう、子供用の小さな靴には確かにラベルがついていたのだ。辺りを見渡すと、そこに靴店があったことに気づく。アスカは地面にへたり込んだ。 「良かった、のか?」  見たく無いもの、想像したく無い物は最初からこの世界に存在していなかった。  立ち上がり、バイクの方へと向かった。  首がだるかった。相当緊張していたのだろうか。  このまま、ユタカを見すてても良いのかもしれない。あんな奴に関わっていたら命がいくつあっても足りない。  愛車は静かに自分を待っている。アスカはハンドルのグリップを握って、一度自分の身体から塵を落とした。  その時、けたたましい叫び声が、ユタカがいるはずの場所から聞こえて来た。 「くそ、死んだか確認するだけだ!」  アスカはバイクのストッパーを蹴って、ぐるりと車体を回した。  アクセルを回しながら前方を睨みつけると、一気にバイクをかっ飛ばした。  車輪が凹凸を撫でて行く。  身体が風を切って、髪がなびいて行く。  ここからあそこまで、数分とかからない。 「死んでろ」  死んでいないと、妹を救ってやれないかもしれない。  あいつと一緒にいたら、命がいくつあっても足りない。 「死んでてくれ」  目をぎゅっと瞑って、ふと前を見ると、例の店が傍らに見えた。 「頼むから、死んでてくれ!」  例の豚野郎は健在だった……。  店は粉々で、そこから這い出すような形で道路に出ているらしい。  魔犬の攻撃をかいくぐりながら、醜くわめきながら一生懸命走っている。 「くそ、乗れ!」  道路に出ようとしていたユタカに向かって手を伸ばす。ユタカはその手を取ってバイクの後部に乗り込んだ。まるで、芋虫のように這いながら、やっと座席に腰を落ち着けると、アスカの腹に手を回す。 「女の子は?」 「いなかった」 「いなかったって、死……」 「全部、てめえの早とちりだったんだよ、馬鹿野郎!」 「あ、そっか。良かった」  ユタカの顔は綻んでいた。  ミラーでそれを確認しながら、アスカはとうとう笑ってしまった。 「あんた、本当になんなの? 普通他人のためにそこまで出来ないでしょ」 「言ったじゃないっすか。他人を見すてたら友達に嘘吐くことになるんです。友達に嘘吐くのだけは嫌です」 「……やっぱ、変」  呆れて物も言えないくらいだった。 「それに、ここで幼女を助ければ幼女ハーレムルートに!」 「行かねえよ、馬鹿じゃないの!」  少しだけ感心して損した気分である。 「で、これからどうすんの? いつまでもあんたを乗せておく訳には行かないよ」 「分かってま……って、うわあ!」  ユタカは驚愕に目を見開いていた。  嫌な予感に苛まれながら前を見ると、魔犬達が先回りして来たのか前方にいる。  ユタカはすぐにバイクから転げ落ちた。 「おい、あんた! 何を!」 「行ってください! 急いでるんでしょ!」 「……っぐうう」  アスカはポケットからカミソリを取り出した。魔犬は今もユタカに向かって行こうとしている。カミソリで手の甲を切ると、血液がどろりと流れ出した。アスカは痛みに呻きながら、振り返る。 「半分、引き受ける。だから、負けんな!」 「はい、ありがとうございます!」  ユタカと来たら鼻水を垂らしながら這っていた。  予想通り、魔犬達はアスカの方にもやって来た。  半々くらいだ。  アスカはトップギアで飛ばした。  得体の知れない奴。  何であんな奴のためにこんな目に遭わないと行けないのだろうか。 「あの、きもオタ、死んだら殺す!」  アスカはただ、バイクを走らせることしか出来なかった。
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