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探せ!探せ!探せ!!
田中の運転する車が怪獣に狙われ出すのは自明の理である。
それでも三人が消し炭にならなかったのは、勇者がボンネットで護衛をしているからだった。今現在、廃墟を進行中のタクシーは勇者が、ビームを盾やら剣やらで弾いているおかげで無傷である。
田中としては会社の機器であるタクシーが傷つくのは最悪の事態である。勇者が乗っていることにかなりの安堵を覚えていた。
しかし、実際の所、勇者がいなければこんな危険な橋を渡る必要は無かったのだが。田中の頭にはすでにそれが無かった。
勇者はそんな田中を時折冷静な瞳で透かし見ながら、ビームをこともなげに弾いている。
黒いローブをはためかせながら、右手に剣、左手に盾。
くる、くる、と剣を回し、肩に担ぎながら怪獣を観察した。
「……まずいな」
言いつつ、剣を大きく振りかぶりビームを叩き落とすと、屈折した熱波が地面に落ちる。熱波は地面を焼き、ぼこっと、ふくらし粉を入れたように膨れ上がる。車は波打つ地面によって飛んだり跳ねたりしていた。
田中は舵取りを怠らない。
勇者は魔王による追撃戦の様子を思い出していた。
馬車に乗った国王、そして、舵取りをする御者。あの二人ほど尊い人間を護送している訳でもないのに、こんなに必死になっている。
「全く、不可解だな」
勇者はユタカの方を振り返り、眉根を寄せた。
だが、そのとき、
「おい、止まれ!」
ビームを左手で弾きながら、こん、こん、とフロントガラスを叩く。
田中はあわててブレーキを入れたようだった。
車はきいっと音を立てて止まり、二人は弾けるように外に出て来た。
「まじかよ」
前、後ろ、どちらを見ても、がれきが積み上がっている。
「あの化け物の攻撃で、こうなってしまった。荒野での戦いとは違うな。こういう事態を想定しておくべきだった」
くる、くる、と剣を背中に戻し、勇者は眉根を寄せた。田中とユタカは勇者を振り返り、助けを請うような表情である。
考え込んではいるのだが、勇者には車を維持したままここを離れる方法が思い付かなかった。
「仕方が無い」
地面を蹴ると、二人は辺りを見渡した。
まるで、勇者が消えたように見えたらしい。
だが、それは錯覚だ。勇者は二人の身体を抱え上げ、膝を曲げていた。ぐっと力を込め、地面がきしむような圧力で蹴り着けると、身体は弾丸のように跳ね上がった。
空中でくるりと一回転し、がれきの外へと飛び上がる。
ビルよりも高く飛んだ後は、ゆっくりと降りて行く。そうして、地面に接地するとふわりと膝を曲げた。
勇者は二人を下ろした。
田中は三半規管が狂ったのか吐きそうになっているし、ユタカは何が起こっているか分からず左右を見ていた。
「何が、起きたんです?」
「これで、お前達の仕事は終わりだ。……もしも偶然、宝珠を見つけたら、花火を打ち上げてくれ。俺はそこに行く。見つけられなくても良い。お前達はお前達が守りたい物を守るんだ」
勇者は言い残し、がれきの中へと走ろうとしたが、立ち止まる。
「田中、報酬だ」
勇者はにやりと笑い、金で出来た硬貨を田中に差し出した。
「私の、仕事、成功でしょうか」
潤む瞳を必死で吹きながら、田中は尋ねた。
「ああ、成功だ」
「勇者さん、これからどうなさるんです?」
「ゲリラ戦を申し込む。正攻法が無理ならば、からめ手だ。やはり、宝珠を見つけるのは現実的じゃない。ここまで被害が拡大している以上、早急に手を打たねばならないと見た」
勇者は言いつつ、さっと身体をひるがえした。
が、すぐに立ち止まる。
影が差したのだ。
空は呆れるほど晴れ渡っていたから雲のせいではない。三人とも上空を見つめて、言葉を失った。
巨大な赤紫色の艦が浮いている。
ドクロの形をした先端に巨大な骸骨が立っていた。
黒いマントを羽織った背の高い骸骨で、王冠を頭に被っていた。ぎろりとこちらを睨む両眼は赤い宝石のようである。
彼は揺れを知らない艦隊の上で微動だにしない。やがて、艦隊の巨大な両翼のように両手を広げ高笑いをする。
「ぐわっははははは。勇者よ、やっと見つけたぞ!!」
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