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「ぐわっははははは。勇者よ、やっと見つけたぞ。男子高校生、サラリーマン、ニートを根絶する我の作戦、DSN破壊オペレーションを阻止しに来るとは良い度胸だ」
「拡張子みたい作戦名だな」
「全くだな」
ぼそぼそ、とユタカが呟くと、勇者も肩をすくめて笑うのである。ユタカは少しだけ不思議そうに彼の顔をまじまじと見たが、勇者は何も言わずに黙っていた。
ちなみにDSNとはパソコン用語である。
「ええい、うるさいわ。ことごとく全てをコンピュターに例えおって。コンピューターの知識がある男子高校生が転生したときはそれで散々混乱させられたと、魔王友達が嘆いておったわ」
「ママ友みたいな感覚で魔王コミュニティが構築されているんですね」
「く、お前、嫌な感じだな。この気配には覚えがあるぞ。こちらに転生する高校生は大体似たような性格をしているのだ。純粋なようで純粋に非ず。熱血なようで熱血にあらず。ユーモラスであるようでユーモラスでない。まるで歪な玉子だ。我、お前ら本当に大っ嫌い」
「すんません! それは謝るしか無いっす!」
実際、転生した高校生のせいで魔王がいるよりもずっと酷いことになってしまった世界もあったものだから、高校生代表、南斗ユタカは平謝りの体である。
「救いに来たはずなのに世界滅ぼすとか、お前ら何考えてんの? お前らさあ!」
「何をさっきからわけの分からないことを言っている。俺と戦いに来たんじゃないのか?」
すらりと剣を抜く音。
勇者が前に進み出て、ぎろりと一瞥する。その視線が向けられるのはもちろん魔王だった。魔王はいきり立つように肩を上下させていたが、次第に笑い始める。
「そうだな、まずは貴様を殺さねばならない……おっと」
魔王が一気に飛び上がった。
勇者が腕から光りを放ったのだ。
それを避けるため、マントをはためかせながら地面へと徐々に落ちて行く。
そうして、
「すたっ」と自分で声を上げて着地するのである。
余裕で待ち構える勇者へと両目の眼光をぎろりと向ける。余裕たっぷりの動作で歩く様子から、やはり勇者恐れるに足らずという事だろうか。
対して勇者の顔色は優れない。眉根を寄せながら、じりっと後ずさっている。
先に動いたのは勇者だった。
身を低く屈めて、剣を地面にすりあわせたかと思うと地面にそわせて先端を前方へと向ける。緑色の風が巻き起こる。剣と地面が擦りあわされたことで産まれた火花が風に触れて燃え上がり、一つの衝撃波を作った。
魔王はこれを両手で迎え撃つ。
文字通り、むき出しの腕が緑色の風と炎を受け止める。一気に吹き散らされた衝撃波は直後消え去った。
「ぬるい、ぬるいわ。これで勇者とよく名乗れたな!」
「……」
「なるほど、貴様宝珠を持っていないのだな」
流石に魔王の勘は鋭かった。
「それで私に向き合おうとは良い度胸だ」
「うるさい」
高笑いを始めた魔王に向かって跳躍する。視界から消えるような速度で距離を詰めると上段から剣を振り下ろす。
しかし、常人からは目には見えない速度でも、魔王からは止まっているも同然だった。魔王は気持ちの悪いほど素早い動作と精密な動作で身をかわし、勇者の腹を殴りつけた。
水面を跳ねる水切り石のようだった。砂埃を巻き上げながらビル群に突っ込むと、勇者は身動きもできないようだった。
魔王はにたりと笑ってユタカの方を見た。
「さて、男子高校生である貴様には死んでもらいたいが、それより先にしてもらわなければならない仕事がある」
ぱちり、魔王は高らかに指を鳴らした。音が届くと、艦隊から怒声のようなわめき声が響いて来る。影がぬっと濃くなって行ったと思うと、指では数えられないくらいの怪物が現れた。
地面を軋ませるような勢いでやって来た怪物達はもう空気を裂くように叫び続けている。
「っははは、よしお前らや……」
「ぐおおおおおおおおおお!」
「やっておしま……」
「うおおおおおおおおおお!」
「おい、ちょっ……」
「ぐああああああああああ!」
「うるさあああああああい!」
魔王の一喝に全員首をすくめた。
「ごほん、下僕どもよ、この二人はあの怪獣への餌だ。この餌で手なずけるのだ」
「ぐるる」
「るらららら」
鼻の長いひょろりとした怪物とめちゃくちゃでかい怪物が前に進み出た。
「全く、しゃべれないというのは不便だ」
魔王は心底がっかりしたように彼らの頭を撫でたりした。
「あの、勇者、まじでポンコツだな……」
万事休す。
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