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泣き喚いている私を放置してそのまま帰っているだろうと思った。
けれど相川さんは旦那さんと共にその場に残り、私にこう声をかけた。
「佐藤さん、娘さん今度いいお相手と結婚されるんでしょ?」
「娘は自分の幸せと引き換えに私を捨てたのよ!」
「佐藤さん、娘さんの旦那さんとかご家族に何か言ったんでしょ?」
思わず相川さんを見上げると、相川さんは呆れたように小さく息を吐いた。
「佐藤さん、その様子だと次の仕事場決まってないの?」
何の下心があってこの夫婦は私を心配しているフリをしているのだろうか。
頭が上手く回らない、自分のプライドの存在をすっかり忘れた。
力無く頷くと相川さんは思いもよらないことを言った。
「ここのスーパーはどう?夫の親族がやってるんだけど、今人手不足で困ってるんだってさ」
「従兄弟がやってるから、いくらでも紹介できますよ」
今まで散々蔑み哀れんでいた車椅子の旦那さんが私を憐れみ、救いの手を差し伸べた。
自分を貫き通さなければいけない。
旦那さんの手を振り払い、馬鹿にするなと激昂する。
それはわかってはいたが、この夫婦以外に私に救いの手を差し伸べる人間はいないのだ。
生きていく為にその手を握るしかない。
そうしないと絶対的な孤独が襲いかかってくる。
ピラミッドの頂点にいたはずなのに、いつの間にか最底辺に突き落とされ施しを受けようとしている。
こんな惨めなことがあっていいのだろうか。
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