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スーパー「フレッシュ」の真新しく綺麗なバックヤードで店長さんに質問を受けていた。週何回働けるのか、何時から何時まで働けるのか、自宅はどこなのか。
自宅を聞かれた時に相川さんが不審な顔をした。
自宅はここから自転車で二十分くらいかかる、それなのに私とこのスーパーで良く会っていたからだ。
「最近ダイエットをしていて自転車で遠くまで行くことにしてるんです。だから通勤は大丈夫です」
店長に話すフリをして相川さんに話していた。
私はここに貴方を探しにきていたのではないと相川さんに媚び諂ったのだ。
「では月曜の九時から出勤して下さい」と店長の優しそうな声で面接は終わった。
相川さんの旦那さんが「ありがとう、佐藤さんのことよろしく」と店長に頭を下げた。
相川さん夫婦は頭が悪いのだろう、殆どの見ず知らずの私の為に頭を下げ、散々恨みがあるはずの私に仕事を紹介した。
こういう人間達が生存競争で強者に喰われていくのだ。
相川さんは車椅子を押しながら、私はその横を歩きながら一緒に店を出ると、外はもう暗く街灯の灯りの下に虫が吸い寄せられている。
「佐藤さん、仕事も決まったことだし元気出して」
思わず立ち止まり、相川さんを見つめた。
「……どうして?どうして?……ずっと相川さんのこと攻撃し続けてきたのに、どうしてこんなに親切にするの?」
すると相川さんはニッと笑った。
「そんな昔のこともういいよ、困った時はお互い様でしょ?」
バッドで背中を殴られたような衝撃を受けた。自分に何の利もなく寧ろ不利益をもたらしてきた人間を助ける。
相川さんが底知れず不気味で恐ろしい。
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