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フレッシュで働き始めて三回目の出勤日のことだった。
同じパートとして働く仲間の顔と名前も一致して、世間話を交わせるようになった。
幸いなことにここには「いい人」ばかりが勤めているようで、誰も人の悪口を言おうとしていない。
心底嬉しかった
私が扇動者になれるからだ。
でも今はまだその時ではない。仕事をミスなく真面目にこなす、そして周りの人の信頼を獲得する。
全てはそれからだ。
もう獲物は定めている。
勿論、客として毎日決まった時間に現れる相川さんだ。
相川さん夫妻が現れると皆、自然と親切にしようとする。それが酷く気に入らない。
車椅子だからって何故特別扱いをされなければらならないのだろう。ほかのお客さんと平等にあるべきだ。
それに相川さんには底知れぬ不気味さを感じている。少しでも気を抜けば私を生贄にしそうな気配すらある。
「殺られる前に殺る」
それだけた
日曜日の午後三時、店内は家族連れで混み合っている。慌ただしくレジ業務に従事しているとふと顔を上げた瞬間に隣のレジの客と目が合った。
そしてそれがよく知っている人物であることに気がつく。
元夫だ
隣には憎き不倫相手と小学校低学年ぐらいの子供が二人いた。
元夫は私からすぐに目を逸らすと私なんて見なかったかのように家族団欒を始めた。
重い荷物を持ち、子供とも手を繋ぎながら私の横をすり抜けていく夫を横目で見た。
私と結婚していた時はこんな風に一緒に買い物に行ったことすらない。
なのにどうしてあの女とはそれをするのだろう。
私があの女より劣っていたと言うのだろうか、いや私の方が年齢や外見、全てがあの女より勝っていた。
悔しい、私が手に入れられなかった幸せをあの女が手に入れている。
悔しい
攻撃したい、誰かを攻撃したくて体が疼く。
けれどお客さんは途切れる事がなく、震える手で仕事に打ち込まなければならない。
午後七時十五分、ようやくお客さんが疎らになり余裕が出てきた。
けれど私の気持ちは治らないままだ。
誰かを攻撃したい。
その時「佐藤さん」と声をかけられて振り向くと相川さんと旦那さんがレジの前にいた。
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