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離婚以来、母子家庭と後ろ指を指されないように必死に頑張って来た。
少ないパート代をやり繰りし、娘には塾にも行かせたし、ピアノだって習わせたし、通信教育の教材もやらせた。
そのお陰でマナミはそこそこのお相手と結婚が決まりそうだ。
おまけにやりがいのある仕事ができていて店長に「正社員にして欲しい」と希望を伝えていた。
やっとそれなりの人生が送れると思っていたのに。
ソファに腰を下ろし、ソファの牛革を力いっぱい掻きむしった。
こんなに頑張っているのに、どうして私は報われないのだろう。
世の中には私よりも外面も内面も下の奴がいっぱいいる、なのにどうしてそういう奴等が幸せを掴んでいるのだろう。
自分の将来はどうなるのだろう、まだ年金を貰うには早過ぎる年齢で貯金も殆どない、働かなくては生きていけない。
新しい仕事を探さなくてはならない。
ふとマナミの顔が思い浮かんだ。
まぁまぁ高級取りの男と結婚するんだから、きっと同居して私の面倒を見ようとするだろう。
私はマナミのたった一人の親だから。
翌日、マナミと私は婚約者家族との顔合わせ会場であるホテルのエレベーターに乗っていた。
「そういえばスーパー辞めたの」
「えっ何で?」
マナミは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。
「どうしても許せないことがあったから辞めてやったのよ、私がいなくなって今頃みんな困ってるに違いないわ」
マナミは私を一瞥するとこう言った。
「そんな簡単に辞めて次の職場どうするの?私は援助できないからね」
マナミは育ててやった恩をすっかり忘れて、私が掴んだ蜘蛛の糸をハサミで切り落とした。
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