ペット

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へえ、動物が好きなんだ。俺も好きなんだよね。 生き物はなんでも。わかる、ホームセンターのペットコーナーはついついのぞいちゃう。ああいうショップにいる子って、人懐っこくてかわいいよね。 っていうか、俺ペット飼ってるんだよね。写真? うちの子の魅力は写真では伝わらないかな。よかったら今から家に来る? 警戒しているね。そりゃあそうだよな。さっき会ったばかりの男に誘われて、ほいほいついてくるわけがないよな。はい、名刺。裏には連絡先も書いてあるよ。俺からは君の名前や連絡先を一切聞かない。もしまた俺と会いたいと思ってくれるのなら、そのときは君から連絡して。 この後俺の家に来てくれるとして、俺が君に変なことをしたら、そのときは警察に通報すればいいさ。俺は君のことを何も知らないが、君は俺の名前や連絡先、住所まで把握しているんだぜ。現在の時刻は二十時ちょい過ぎ。終電だってまだまだ先だよ。どう見ても君に有利な条件だと思うけれど、どうかな? お、その気になってきた? いいねえ。やっぱり君に声を掛けて正解だった。違う違う、そういう意味で言ったわけじゃない。尻軽そうには見えないよ。むしろ逆かな。真面目で、平凡な人生に退屈していて、同じことの繰り返しの地味な生活から逃げ出したい。そう思っているように見えたから声を掛けたんだよ。どう? 当たっている? 俺、占い師になれるかな。 じゃあ、ペットの話をもう少ししようか。それからどうするか決めて。 種類はだめ。それは会ってのお楽しみってことにしようよ。あ、もしかして苦手な動物とか、アレルギーとかがあったりする? ないならいいじゃん、秘密ね。性別はメスだよ。オスも悪くないけれど、腕白だったり発情期が大変だったりするからね。そうそう、俺みたいに。って、ひどいな。俺、そんなに発情しているように見える? ペットを飼うのは初めてだからさ、おっとりした性格のメスにしたんだよ。慣れたらオスも飼おうかな。 モモだよ。名前から何の動物か推理しようとしたでしょう。残念でした。どの動物にもつけられる名前だよね。犬でも猫でもインコでもハムスターでもなんでもいける。でも、これ俺がつけた名前じゃないんだ。名付け親がいるっていうか。まあ、モモとは保護活動みたいな感じで出会ったからさ。 あれ、俺、今すごくいい人みたいに見えてる? そうなんだよ。こう見えて保護活動とかしちゃう、仏のような人なんだよ。それは別。善人でもナンパくらいはするって。特に君みたいに魅力的な子がいたら、神だって仏だってつい声を掛けたくなるよ。でも、君さっきより警戒していないでしょう。 冗談も言えるようになったしな。 そろそろお店を出ようか。とりあえず家の前まで来て、嫌だったらすぐに帰ればいいよ。無理強いはしない。全部君が決めて。ありがとう、嬉しいよ。お代はいらないって。じゃあ、次回は君が出してよ。それならいいよね。そう、これも作戦なんだ。これで君はまた俺と会わないといけなくなるからね。冗談だよ。全部君が決めてって言ったじゃないか。次また会うかどうかもこの後君が決めればいいんだよ。どのみち俺からは連絡できないんだし。 ここが俺の部屋。片付けるからちょっとだけ待っててくれる? 五分くらいですぐ終わるから。寒いのにごめんね。 男は部屋の中に入り、モモのいる部屋へと向かう。 「ただいま、モモ」 「おかえりなさい」 モモと呼ばれた女が駆け寄り、男に抱きつく。男がモモの頬をなでると、モモは嬉しそうに男の手を自分の両手で包みこんだ。 「モモ、いつも一人で留守番させてごめんな。でももう寂しくないぞ。今日から仲間が増えるんだ。仲良くするんだよ」 モモが顔をしかめ、男の手の甲をつねる。 「それ、前からご主人が飼いたいなって話していた子? モモのことも今までと同じようにかわいがってくれるなら仲良くしてあげるよ」 男は幼子をあやすようにモモの頭をポンポンとたたき、玄関へと戻っていった。ドアを開けて微笑む。 「お待たせ。ゆっくりしていって」
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