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シーン1-1
平日の昼下がり、千原城市の駅前商店街。
その一角に「特産品ショップ Fortress 」の看板が前面の壁の上に置かれた小さな店。
客が一人もいない店内で、手持無沙汰そうな玲奈、瑠美、智花、沙羅、倫の5人の店員。
天井に埋め込まれた二つのパトカーの回転灯のようなランプが赤い光を放つ。
店内に突然流れ始めるオルゴールの音色。曲はリヒャルト・ワグナーの「ワルキューレの騎行」。
店奥の椅子に座っていた倫が勢いよく立ち上がる。
倫「これは!」
玲奈「みなさん、出動です!」
人が変わったように真剣な顔つきになった5人、閉店の準備にかかる。
玲奈が走って表へ出て店のシャッターを下ろし、「本日臨時休業」のプレートをシャッターにかける。閉まるシャッターの下の隙間をスライディングですり抜け、裏口に向かって走る4人の後を追う。
店の裏口の空き地にコンビニの配送者ぐらいの大きさのトラックが鋭いブレーキ音を立てて停まる。
トラックの運転席から北野慎吾が声をかける。
北野「戦闘服は荷台に用意できてます!」
トラックの荷台部分に後ろのドアから乗り込む5人。
中は両側にベンチ型のシートがあり、5人がそれぞれのスーツケースを開く。
北野はトラックを再発車させ、素早くハンドルを切る。
荷台内で5人がそれぞれの服に着替える。
銀色の下地に玲奈は赤、瑠美は青、智花は黄色、沙羅はピンク、リンは黒の、メタリックな光沢のラインが走っているトップス。
下は同じ色と模様のミディアム丈のスカートと黒いスパッツ。靴はそれぞれの色の光沢のあるハーフブーツ。
手袋も光沢のあるそれぞれの色。左手首に四角いギアをはめる。ギアの真ん中にある丸いライトが鋭く光る。
最後にヘルメット型のマスクをかぶる。全体に丸く、それぞれの色。両耳の上あたりに、各自の飾り。
顔の全面をスッポリ覆うサンバイザー型のシールドを下ろす。
倫「ブラック、装着完了!」
沙羅「ピンク、装着完了!」
智花「イエロー、装着完了!」
瑠美「ブルー、装着完了!」
玲奈が最後にバイザーを下ろし、4人の方へ向き直る。
玲奈「全員出動準備、完了!」
キッとブレーキ音がして車が停まる。後ろのドアを北野がバンと勢いよく開く。
北野「現場に到着しました! こちらへ!」
トラックの荷台から次々に飛び出し、5人が二階建ての大きな建物の裏口から中へ走る。
階段を駆け上がる5人。スーツ姿の男が真っ青な顔色からパッと安心した表情になる。男が自分の前の方向を指差し、5人に叫ぶ。
男「ここです! 助かった!」
狭い壁に囲まれた四角い空間を走り抜ける5人。彼女たちの前方の視界がバッと開ける。
倫「この街の平和と」
沙羅「安全と」
智花「子供たちの未来は」
瑠美「私たちが守る」
玲奈が最後の飛び出し、空中で前に体を回転させ、右ひざを曲げた姿勢で着地、立ち上がって
玲奈「我ら正義の、チバラキファイブ!」
5人同時に片腕を高々と伸ばしてポーズを決めながら、声をそろえて叫ぶ。
5人「Here we are!」
視点転換
5人の視点から見た前方の光景。
畳敷きの大広間に和風の大きなテーブルと座布団が並んでいる。席数の半分ほどの観客。ほとんどは高齢者と子ども。
カラオケ用のステージに現れたチバラキファイブの5人にはちらっと眼をやっただけで、それぞれ元の動きに戻る。
一番近いテーブルでは6人の男女の高齢者がビールを飲んで、おしゃべりの夢中。
真ん中のあたりのテーブルでは高齢者のグループが一心不乱に将棋を差している。
一番向こう側のテーブルでは、背中でテーブルに寄りかかった小学生が数人、携帯ゲーム機で遊んでいる。
さっきのスーツ姿の中年の男がステージに出てきて、観客のあまりの無反応ぶりに冷や汗を流しながらマイクを手に取って話しだす。
男「えー、みなさん。本日はわが千原城市の新しいご当地キャラクター、チバラキファイブのみなさんが駆けつけてくれました。ではリーダーのレッドさんにお話を聞いてみましょう」
マイクが玲奈の口元に差し出される。
玲奈「市民のみなさん、そして良い子のみなさん、こんにちわ!」
ステージから一番離れたテーブルの周りで女の子がちらっと視線を向ける。
女の子「ねえ、なんか始まったみたいよ」
男の子1「ん? 何でもいいじゃん」
女の子2「興味ないし」
男の子2「何あれ? だっさ!」
場面転換
さっきのトラックの荷台。シートに座ってマスクだけ脱いだチバラキファイブの5人がげんなりした表情。
沙羅「いや、見事なまでに反応なかったじゃん」
智花「出演予定の演歌歌手が来れなくなった、その急遽の代理出演だったしね」
瑠美「なんか先が思いやられるんだけどお」
倫「まあ、最初はこんなもんでしょ」
玲奈「そ、そうですよ。きっとこれからなんですよ。みんなでがんばりましょう!」
玲奈モノローグ
「とは言ったけど……ほんとに大丈夫かな、この企画。それにしても、こんな仕事に就くなんて、あの時は想像もしてなかったなあ」
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