69人が本棚に入れています
本棚に追加
/1644ページ
目標と約束
毎年祭りとなるとバカが出るのは珍しい話でもないが、今年ももれなくバカがいたらしい…
ユリアたちに手を出したバカの話はすぐに俺のところにも回ってきた。
「よりによって、ユリアとライナに手を出すなんてな…」
レスリングの観客の馬鹿騒ぎで気付いてなかったが、俺もワルターもレスリングの会場に居たからこの話は聞き捨てならなかった。
テレーゼやアレクたちの耳に入らなかったのと、彼らが被害に遭わなかったのがせめてもの救いだ。
「で?そのバカはどうしたんだ?」
「今探してるってよ。ライナがやり返して左腕に噛みついたらしいからそれが目印だと」と、他の団員から聞いた話をディルクが伝えた。
まぁ、有耶無耶にするつもりはない。やることやらなきゃナメられる。
ったく…これからが面白いってのに…
「《燕の団》とロンメル家に喧嘩売ったんだ。俺たちにドロ塗ったクソ野郎は絶対逃すなよ?あと、ライナたちはどうしてる?」
「アルノーの話じゃライナと一緒にいたお嬢ちゃんたちは保護してるって話だ。あいつとカイが近くにいて良かったな」
「全くだ。ワルター、俺はちょっと外すぞ」
「おう。俺も挨拶してやりてぇから後で連れて来いよ。俺の可愛い娘たちが世話になったってな」
「了解」と頷いて舞台のよく見える席を立つと、俺が動いたのを見て新衛兵として付いてた《犬》たちが続いた。
「《取ってこい》はできるな?」と短い命令を出すと、ディルクを残して他の《犬》たちも群衆の中に入って行った。《取ってこい》と命令したら後はあいつらにまかせるのが俺の仕事だ。
ディルクが俺に合図して指さした人混みから離れた植え込みには数人の見知った顔が並んでいた。
大人たちに囲まれた二人の少女の姿を認めて彼女らに近づいた。
「ユリア、ライナ。二人とも大丈夫だったか?」
「大丈夫だよ」と答えた少女らは、怖い思いをしたはずだが思いの外元気そうだった。とりあえず二人の様子を見て安心した。
むしろ問題がありそうなのは酷く落ち込んでいるアダルウィンの方だ。彼は真面目だからこの件を酷く不名誉に感じているのだろう。
「申し訳ありません…私が二人をお預かりしていながら…このような事に…」
「とりあえず、状況を説明して。君の反省はその後だ」と当事者たちから話を聞いた。
概ね俺の聞いた話と同じだ。アダルウィンを庇おうとするユリアたちが途中何度か割り込んできたが、アダルウィンにも悪い所はある。
「ユリアを守ったのは偉かったけど、安全が確認できるまでライナから目を離すべきじゃなかったな」
「はい…申し訳ありません、私の落ち度です…」
「アダルウィン様は悪くないよ!ユリアが悪くて…」
「ユリア。アダルウィンはお前たち《二人》をハンスたちに任されたんだ。
ユリアが自分の意思で危険な場所に近寄ってしまったとしても、害があったならアダルウィンの責任になってしまうんだよ」
「…ユリアのせい…」
「まぁ、状況的にはそうだけど、ワルターやハンスたちに説明するのも責任を取るのもアダルウィンだ。そうだな、アダルウィン?」
「はい。全てはユリア嬢を静止できなかった私に非があります。冷静な判断をできずにライナをも危険にさらしました。弁明もございません」
彼は潔く自分の至らなさを認めた。言い訳をしないその姿勢は誉められるべきもので、彼はこの不名誉から学ぶだろう。
若者は失敗から学ぶものだ…
最初のコメントを投稿しよう!