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「そいつは流石に聞き捨てならんな、坊ちゃん」とフリッツが巨体を揺らして椅子から立ち上がる。
「そいつは俺らの金づるなんでね、黙って殺させる訳にはいかんよ」
「だな」エルマーの言葉にオーラフが同意し、ソーリューも席を立った。
「この狂犬共がッ!」とギュンターは怒ってる様子だが、彼の部下たちも分が悪いと見て主人を宥めようとしていた。
「立てるか、ワルター?」とエルマーの手が彼に伸びた。
「平気だ」と笑って、彼は一瞬だけ机の下の僕に視線を向けた。無事だと笑ってみせる。
「お前たち!そいつに着いて行くと後悔するぞ!
時期団長は俺なんだからな!」
「俺達は卑しいもんでね、しっぽ振る相手と牙を剥く相手を選ぶんだ」
「餌貰う相手もな」
「こいつは未払いないんでな、信用だけはある」
「俺は金払い以外にいいとこ無しかい?」とワルターが笑った。
「傭兵は捨て駒かもしれんが、それなら生き残れる方に付くだけだ。
命張るほどの忠誠心とやらもないしな。
結局信用出来んのは金だ、金」
「ヨナタンの言う通り、傭兵なんてそんなもんよ。
傭兵風情に何を期待してんのかね、このお坊ちゃまは?」
机の下でヨナタンの手が僕の襟首から離れた。彼は腕を組んで相手を睨みつけた。
「ウチから引き抜くのは抜かれた奴の問題だ。
口出しする気は無いが、あんたのやり方は目に余る。
自分の手勢なら自分の足で探すんだな、兄貴に頼るな!」
図星だったのか、ギュンターが言葉を無くした。
彼はまた「妾腹が」と兄を罵った。
ワルターに向かって唾を吐くと、踵を返し、取り巻きを連れて店を出て行った。
「従騎士のくせに行儀の悪い弟だ」とヨナタンが苛立たしげに呟いた。
「仕方ねえよ」と笑うとワルターの顔が机の下を覗き込んだ。
「ビックリしたろ?もう大丈夫だ」
「ワルター…顔…」左頬を殴られて血が出てた。
「こんなの慣れてる。
男前上がったろ?」と言って彼は鼻血を拭った。
「ああやって俺に嫌がらせに来るんだ。
あいつも暇だよな」
「動かないで、《復元》」
父さんから教えられた回復魔法を彼にかけた。
僕のは不完全だ。父さんみたいに完璧な魔法じゃない。
それでも彼らは喜んでくれた。
「止血と応急手当にしかならないけど…」
「十分だ、ありがとな」
「魔法を使うのに杖は使わないんだな」とヨナタンが言ったので、「これがあるから」と腕輪を見せた。
魔法を媒介する、七つの魔法石が嵌められている。
それぞれの石が魔力を感知してエレメントに働きかける。
石の組み合わせで魔法の属性も変わる。
腕輪を見たヨナタンは、僕に厳しい口調で「それは人に見せたらダメだ」と叱った。
「でも…」
「スー、お前は良い子すぎる。
人を疑え、用心しろ。そうでなきゃ後でとんでもない目にあう」
「まぁ、そんなに怖い顔で言わなくてもイイだろ?
スー、お前凄い奴だな」
ヨナタンに注意された僕をエルマーが庇った。
座ってた時は気づかなかったが、彼は手足が普通の人より長かった。まるで夕日に映った長い影のようだ。
「ワルターを治してくれてありがとな。
腕輪はしまっておきな、悪い奴に見られると良い事無いからさ」と彼は僕の肩を叩きながら優しく言った。
「あの仏頂面は言い方はキツイけど、お前を心配してるのさ」
僕が頷くと彼は僕の頭を撫でて、ワルターに向き直った。
「ギュンターに渡したら、今度は俺があんたを殴るからな」
「やらねえよ。
スーだってあいつがどういう奴か分かったろ?
欲しいものは何でも手に入れようとするし、自分より弱い者は蔑むクズだ」
ワルターはそう言って僕に手を差し出した。
「心配すんな、俺の目の届く限りあいつにお前を渡したりしねぇよ。
俺がいなかったらこいつらを頼れよ?
割といい奴らだ」
彼らもワルターの言葉に頷いてくれた。
「うん」心強い彼らに頷いて、ワルターの大きな手を取った。
僕は彼の部隊に入った。
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