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✩.*˚
知らず知らずのうちに酷く不細工な面を晒していたようだ…
眉根を指先で抑えてため息を吐き出した。指から伝わる感触は眉間にできた深い溝の存在を伝えた。
本当に機嫌が悪いわけじゃない。むしろその逆だ…
スーの言う通り、こんな時間は久しぶりだった。
そうなってしまったのは、あいつがずっと会いたがっていた《親友》との再会がそもそもの原因だ…
今までがむしゃらに作り上げた団を放りだしてでも、その《親友》の助けになりたいと思ったのだろう。
そう自分を納得させて、フーゴと一緒にあいつの穴を埋めようと努力した。
フーゴは事務的な事はできるが、まだ他所から来たばかりの新参者だ。団員からの信用が足りない。俺は仲間からの信用はあるが頭の方はからっきしだ。
ゲルトの爺さんについて行ったカミルの兄さんもまだ戻らない。結局、団を守るにはあいつと俺で役割分担をするしか無かった。
拠点から動けずに、俺のイライラは溜まっていた。
今までずっとスーの《犬》として行動をともにしていたのに…
面白いはずの特等席は他人に奪われてしまった。
《親友》が現れた途端、スーは俺の存在を忘れてしまったようだった。このまま団を別の誰かに譲って、あの友人と一緒に言ってしまうのでは無いかと思えるほどに…
スーが居ないだけで同じはずの日常も味気ないような、色褪せた印象に変わっていた。乾いた砂みたいな毎日に嫌気がさしていた。
そんな腐りかけていた時に困っているスーが俺の眼の前に現れた。
正直、スーが俺を頼ってきたという事実は俺にとって嬉しいことだった。
《仕方ない》というふうに装って、誰かに奪われる前に俺にとっての特等席を抑えた。
後で食らうはずの煩わしいフーゴの説教がどうでも良いと思えるほど、俺はこいつに必要だと思われたいんだ…俺が必要だと思わせたいんだ…
しばらく俺の様子を伺っていたスーだったが、会話を諦めたように俺から視線を外した。
久しぶりすぎて、何を話せば良いのか分からない。
公子の事を訊ねればスーは喜んで話すだろう。しかし俺には興味のない話だ。むしろ聞きたくないと思えるような話も飛び出すかもしれない…
スーの性格からすれば、公子は《友人》なのだろうが、相手がそう思っているかと言われれば微妙だ。何より。久しぶりに会えた《親友》とはいえ距離感がおかしい…
まぁ、俺が勝手に嫉妬しているだけかもしれないが…
考えれば考えるほど、さっき指摘された眉間のシワが深くなるのを感じて、また指先で確認した。
案の定だ…
ため息を吐き出して自己嫌悪に陥っていると、不意に前を行くスーから声がかかった。
「なぁ、ちょっと…そこで停まって」とスーの示した先を見ると、小さな沢があった。旅行者が馬に水を飲ませる場所だろう。
馬を休ませるつもりで沢の前で馬を降りた。
「ディルク」と呼ばれて声のした方に視線を動かすと、眼の前に伸びたスーの手が額に触れた。
「軽めにかけとく」と言った後に短い詠唱を受けてスーの指輪がぼんやりと光りを放った。
触れた手のひらからじんわりとした心地よい熱が伝わって、重かった頭と肩が軽くなった気がした。
疲れが全部吹き飛ぶほどのもんじゃないが、それでも体感的には全く違っていた。
「よし。こんなもんだろ?」
満足気に笑いながら、スーは俺の眉間に人差し指を当てて眉間のシワを隠した。
「これは消すの苦労しそうだ」なんて他人事にみたいに…
俺に苦労を押し付けるお前のせいだろうが?
人の気も知らないで笑いやがって、呑気なもんだ…
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