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✩.*˚
「旦那さまが戻ってきてよかったわ」
一緒にベッドに入った時にミアが俺に向かってそう呟いた。彼女もワルターたちの事を心配していたから、ワルターが戻ってきて安心したのだろう。
俺は何もしてないけど、ワルターとテレーゼは上手く折り合いが取れたようだ。
ラウラが間に入って上手く話を運んでくれたし、ワルターもテレーゼもお互いに自分の悪かった所を認めたし、クラウディアも問題になった《四葉》を返してくれた。
今回の件は上手く噛み合っていなかっただけで、誰も悪くなかったんだ。丸く収まって良かったと思う。
ミアと枕の間に腕を差し入れると彼女は枕を乗り換えた。
彼女が俺の腕の中にすっぽりと収まって柔らかい曲線の身体が重なる。
まだ寝るのが惜しくてミアの声が聞きたくて話を続けた。
「あの二人でも喧嘩とかするんだね。俺も驚いたよ」
「喧嘩かぁ…まだあたしたちも喧嘩まではしたこと無いね」
「だってミアは滅多に怒らないじゃないか?君って俺に不満とか無いの?」
「不満ねぇ…」腕の中でモゾモゾと動いてミアは寝返りを打つと視線を天井に向けた。
「無いよ。今は」と言う彼女の顔が少し寂しそうに見えたのは、部屋が暗かったからだろうか?
「あたしがスーにしてほしいって思うことは全部してもらってるもん。あたしのこともルドの事も大事にしてくれるし、困った事も無いよ。
まぁ、そうね…強いて言うなら、時々遠くに行っちゃうことかな…」
「それは俺が留守にすること?」
「うん…ちょっと寂しい…」と呟いて、彼女はごまかすように小さく笑った。
彼女の気持ちは理解できる。
寂しいというより、本音は不安なんだ。俺がエルマーと同じ結果を持ち帰るのが怖くて仕方ないのだろう。
俺は傭兵だから、彼女のその考えが間違いだとは思わない。むしろ彼女は最悪の未来を覚悟しているのだ…
「ずっと一緒に居られなくてごめん」
「何言ってんの?そんなの当たり前じゃん。スーは団長なんだし、これはあたしの我儘だよ。そんな真に受けて気にしなくていいよ」
「うん。でも、これだけは言わせてよ。俺はちゃんと君のところに返ってくるから…君とルドのところに帰るから、寂しいのはそれで許してよ」
「しかたないなぁ。スーがそう言うなら信じるよ」彼女はそう言って笑うと俺を甘やかしてくれた。
子供にするように頭を撫でる手は優しい。
忘れかけていた母親の記憶が刺激されて、俺を子供扱いする彼女の手のひらを素直に受け入れていた。
「ねぇ、キスしよう」と彼女に甘えた。ミアは「良いよ」と答えて笑って応じてくれた。
彼女の顔にかかっていた髪をどけて唇を重ねた。
俺は我儘だから一度では足りない。
クスクスとくすぐったそうに笑いながらミアは俺が気の済むまで付き合ってくれた。
「ねぇ、スー。こんな時になんだけど…一つお願いして良い?」
「何?言ってよ」
「ルドの事。あの子、口に出さないけど寂しいんだと思うんだ…
少しだけでいいから、あの子の話聞いてあげて」
彼女のお願いはささやかなものだった。でも俺にとっても大切な話だ。アレクの事ばかりで、ルドとの時間は後回しになってしまっていた。
「分かった。明日アレクに言って時間作るよ」
「うん。ありがとう」
「俺はルドの父親なんだから当たり前だろ?
それよりさ、俺からもお願いして良い?」
「何?お願いって?」
「さっきキスしたらしたくなっちゃった。ダメ?」と伝えると、彼女は少し呆れたみたいに「もう、またそれ?」と苦笑いした。でも彼女はいつもそう言いながら結局俺を甘やかしてくれる。
少し恥ずかしそうに笑いながら彼女はキスをくれた。
俺を受け入れてくれる彼女の優しさに甘えて、軋むベッドの上で混ざり合うように肌を重ねた。
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