収穫祭

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✩.*˚ 「…は?」 収穫祭の視察という名目で、身内を連れて祭りを見に来たのだが、とんでもないものに出くわしてしまった… 「父上?!」「お、お義父様?!」 アレクシス様とクラウディア様はアインホーン城に帰ったはずのパウル様の姿を見つけて悲鳴に近い声を上げていた。 無理もない… パウル様のはっちゃけを知っている俺でさえ頭を抱える光景だ… 「遅かったな。私は勝手に楽しませてもらってるぞ!」と機嫌よく笑うパウル様は祭りを存分に楽しんでいるようだ。 「パウル様。アインホーン城の方はもうよろしいんですか?」 「うむ。急ぎすべて終わらせてきた。ガブリエラも文句ないだろう。私も庶民の祭りを楽しみたいからな! さっき見かけた賭けレスリングに飛び入り参加させてもらった!」 「…で、これですか?」そう言って辺りを見回した。 祭りだから少しぐらい羽目を外すのは仕方ないが、賭けレスリングの主催者も侯爵の我儘に頭を抱え込んでいた。周りも扱いに困っている様子だ。 「父上、ご自分の立場を考えて下さい。このような場所で万が一何かあったら…」 「何を言う?こんな面白そうなこと見逃すわけは無いだろう? 私を負かせたら賞金に小金貨6枚と侯爵家で召し上げる約束をしている。まだ挑戦者を募集中だ。 ロンメル男爵、卿もどうだ?」 「すでに召し上げられてますんで、辞退します」 「じゃぁ、フォーテスキュー卿はどうだ?」 パウル様は取り付く島無く断った俺から、護衛として付き添っていたアーサーに標的を変更した。よほどレスリングがしたいのだろう…困った人だ… 「過分なお言葉ですが、私は今の主に満足しておりますし、職務中ですのでご辞退させていただきます」 アーサーは俺を言い訳にして、やんちゃの抜けないおっさんを軽く躱した。こいつは本当に容量がいい。 「なんだ?つまらんな」パウル様は興が削がれたように拗ねてしまったが、無理強いをするような人でもない。 「なんか面白そうなことやってるじゃん」と騒ぎを聞きつけた物好きが俺の肩を叩いた。 別行動していたスーがディルクら《燕の団》の数人を連れて賭けの催場を見物に来たようだ。 「丁度良い、お前ら参加してこいよ」 「そんなことしたら賭けにならなくなるだろ?」 「いやー、今年はちょっと大荒れの模様だ」と苦笑いして嵐の目を視線で示した。スーたちも視線の先には気付いたが、状況までは正確に理解できなかったみたいだ。 まぁ、分かったらある意味すごいけどな… 「侯爵様の御前試合か?こりゃ下手なことできねぇな」 「おもしれぇ、侯爵様から賞金でも出るのか?」と、連中は乗り気だ。 「まぁ、みたいなもんだな…」と濁したが俺は嘘は吐いてない。 侯爵の御前試合で賞金も出る。ただ、そこに本人も参加するだけだ… 「なんか…大変な事になりそうですね…」 成り行きを見守っていたテレーゼがフィーを連れて俺の傍らで呟いた。 「止めないのか?」 「アレクシスお兄様が申し上げても止めないなら私が申し上げても無駄ですわ。私はお怪我しないかだけ見届けます」と彼女はすでに諦めているようだ。 「お祖父様、何するの?」と訊ねるフィーはまだ状況を理解できていないらしい。 「レスリングだよ。お祭り参加するんだってさ」と教えてやったら、お転婆娘は目を輝かせた。 「フィーもお祖父様と一緒にお祭りする!」 「ダメだ。フィーは女の子だからな」 「むー!女の子ばっかりできないこと多い!」 「そんな事言ったって仕方ないだろ?」と宥めるがフィーはそれでも納得できないみたいだ。 「良いもん。そのうち男の子になったらするもん」などと変な事を言って拗ねてしまった。フィーは時々《男の子になったら》と言うが子供ってのはそういうものなのだろうか? 何やらあちこち無茶苦茶ではあるが、今日は祭りだ。多少羽目を外すくらい大目に見るか… 俺もなんだかんだで、今日しか見れない賑やかな祭りの景色を楽しんでいた。
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