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✩.*˚
またやっちまった…
ライナの髪を整えて満足すると同時に、自分の意思の弱さに呆れた。
もうやらねぇって言ったのに、また髪を結んじまった…
しかも自分からやるって言ったんだから、本当に馬鹿だ…櫛まで買いに走って、本当に大馬鹿だ…
髪を整えたライナは嫌なことを忘れたように、淡く頬を染めて笑顔になった。
整えた髪型を気にするように、ライナは指先で自分の髪を確かめていた。
「せっかくなら鏡も買ってきなさいよ。気が利かないわね」とティナが文句を言ったがそこまで気が回るかよ?
「今から二人で買いに行ってきなよ。もちろんあんたが買ってやんなよ?そのくらい稼ぎあるでしょ?あたしはここでアルノー待ってるから、さっさと行ってきな」
「はぁ?なんで?」
「なんでって?あんたも野暮ったいねぇ。
ねー?ライナだって自分の髪がどうなってるか知りたいもんねー?気になって気になって仕方ないよー!って言ってやんなよ」
ライナにまで絡みだしたから手に負えない。こいつ酔っ払ってんのか?
もう面倒くさいが、本当に鏡を買ってこないとずっと根に持って悪絡みしてきそうだ。
「仕方ねぇな…買ってくるから待ってろ」
「ダメダメ!ちゃんと気に入ったの買ってやんなよ。女の子は好みが厳しいのよ。安く済ませる気?」
あーもー!女って面倒くせぇな!
「うるせえな!ほら、ライナ行くぞ!」
そう言って半ばヤケクソでライナの手を引っ張って立たせた。
ティナは相変わらず「高いの買ってもらいなよ」とかなんとか言っていたが、無視だ!無視!
逃げるようにライナを連れて雑貨屋に向かったが、どうにも変な感じだ…
沈黙に耐えかねたのか、手を引かれていたライナが俺の少し後ろから話しかけた。
「…カイ、あたし自分で買うよ。お金ならあるし…」
「そうしたら俺が甲斐性なしみたいになるだろうが?」
「でも、カイに迷惑かけれないし…」
ゴニョゴニョと自信なく喋る声ははっきりしない。
怖がらせちまったか?
そう思って振り返ると、俺を見上げていたライナと視線が合った。
視線が合ったのは一瞬だ。ライナは慌てた様子で視線を足元に落とした。
俺から逃げた顔は恥じらうような女の表情をしていた。
こんなの調子狂うわ…
元々可愛いんだ。変に意識してしまう…
「鏡ぐらい買ってやるよ」
言葉がぶっきらぼうになるのは他のやり方が分からないからだ。
適当に扱える相手ならふざけた軽口も叩けたが、相手がライナだとそれができない。
そのまま二人で無言で歩いて櫛を買った店まで戻った。店番をしてた雑貨屋のおばさんが俺の顔を見て首を傾げた。
「あれ?さっき来た…何かあったかい?」
「いや。鏡見たいんだけど、置いてるか?」と訊ねてライナの背を押しておばさんの前に立たせた。
「あら可愛い。鏡も置いてるよ。手に持つのと置くのとあるけどどっちが良い?」と愛想よく答えて、おばさんは鏡をいくつか見せてくれた。
鏡って言っても大きさも形も様々だ。こんな祭りの出店に並んでいるから値段なんてたかが知れているが、安いものはそれなりのもんだろう。
ライナが並んだ鏡を見て、俺に「どれが良い?」と訊ねた。
「お前が使うんだろ?お前が選べよ」
「でも、買ってくれるのカイだし…あたしこういうのセンスないから」
「俺だって知らねぇよ。女のものなんか買わねぇし」と言って並んだ鏡から視線を外した。
俺が使うんじゃない。使う奴が好きなの選べばいいし、俺がわざわざ口を挟むようなことじゃない。そこに俺の意見なんて必要ない…
俺とライナは特別な関係じゃない。そこに挟まるものはできる限りなくすべきだ…
ライナの視線が俺を追いかけてきたが、気付いてない振りをして露店の端で煙草を咥えた。
「決めたら言えよ」なんてそっけない冷えた言葉で彼女の願いを振り払って、気持ちを追い払うように吸い込んだ煙は苦かった。
「…おばさん。これ見せて」「これかい?」とライナとおばさんの間の会話に聞き耳を立てて、ライナが選び終わるのを待った。
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