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ワルター
「入隊希望?」
「そうだ、手続きして欲しい」
幼さを残した、少年と青年の間の顔が、大真面目に頷いた。
確かに、傭兵団 《雷神の拳》は万年人材不足だ。
そうでなきゃ、俺が隊長なんかやらねぇよ。
今も団員募集の看板を用意していたところだ。
毎回戦場に出れば、入団者と同じくらいの隊員が消える。
相手がこんなガキじゃなきゃ二つ返事で応じたろうが、好奇心や憧れなんかで入隊を許可すれば足を引っ張られるのは目に見えている。
紫の瞳と黒髪の線の細い青年は、見ようによっては女性のようにも見える程幼く、綺麗な顔をしていた。
周りの荒くれ者の傭兵達の中に立てば、その異質さに皆振り返る。
若いと言うより幼い彼の身を案じて、入隊を断って追い出そうとした。
「やめとけよ。
あんたみたいな奴の来る所じゃねぇよ」
「出自などは問わないとあるじゃないか?
僕でも雇ってもらえるはずだ」
「お前な…
悪いことは言わんから、さっさとおうち帰んな。
お前みたいな華奢で綺麗な奴、泣かされて帰るのがオチだぜ?
ほら、ケツ掘られる前に帰んな」
親切心で言ってやったつもりだ。
諦めて帰んな。
青年は眉を寄せて「…どういう意味?」と訊ねた。
ほらな、やっぱり世間もなんにも知らないボンボンだ…
傭兵なんて器じゃない。
「あー…つまりだな…」と教えてやる。
俺何でこんな話してんの?
俺の話を聞いて、青年は居心地悪そうに周りを見回した。
自分に向けられている好奇の視線にやっと気づいたらしい。
顔を赤くして俯いたガキを見て、煙草を出して火を点けた。
「ほら、さっさと帰んな」
「…帰る場所はない」と彼はさっきまでの威勢は無くして、困ったように呟いた。
「んなわけねぇだろ?家出か?」
俺の言葉に目の前の青年は小さく頷いた。
いつの時代もこういう奴は居る。
「相手は親父かお袋か知らんが、大人しく謝って帰んな。
心配してるはずだぜ」
あまり見ない格好だが、外套の下は小綺麗な服装で、割と不自由したことのなさそうな形をしている。
手を見たが綺麗なもんだ。
大事にされてたはずだ。
しばらく黙っていたが、こいつは諦める気がなかったらしい。
「魔法と精霊なら使える」と勝手に自己アピールを始めた。
「…はぁ」帰れよ…
「弓も使える。ダメかな?」
「…他は?」と質問してやると少し表情が明るくなった。
「熊や狼なら倒したことがある」
細いくせにホントかよ?そんな猟師みたいな生活してるようには見えないが…
「分かったよ、とりあえず着いてきな」
「ありがとう!」
「待てよ、まだ入れてやるって言ってないからな!
使えなさそうだったら容赦なく放り出すぞ!」
「分かった」
「俺はワルターってんだ。
この傭兵団で一応部隊長やってる」
「僕はスペース。
スーって呼ばれてる」懐っこく自己紹介をする青年は幼い顔で笑った。
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