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「ちょっとしたテストだ、合格したら名前で呼んでやるよ」
そう言ってニヤッと笑ってみせる。
「不合格なら大人しく帰れよ?
親父かお袋と仲直りしな」
「僕は帰らないよ」と何やら自信ありげだ。
やれやれ、面倒くさい奴に懐かれたもんだ…
「俺達の傭兵団は《雷神の拳》ってんだ。
創設者は《雷光のカール》って《英雄》だ。
今仕切ってる三代目のお眼鏡に叶えば合格だ」
そう話をしながら、スーを拠点の中庭に案内しようとしていた俺の頭上に、雷みたいな怒声が降ってきた。
「おい!ワルター!何サボってやがる!」
あまりの大きな怒声に、スーが驚いて肩を震わせた。
まぁビビるわな、俺もビビったわ…
「サボってねぇよ!」と呼び止めた男に怒鳴り返した。
「何だ!女連れて遊んでるのかと思ったぜ!」
二階上の手摺から身を乗り出して、《英雄》の孫が笑った。
全く元気な爺だ…
彼は上にも横にもデカい体で、階段をゆっくり降りてくると、スーを見て「何だ、男か?」と残念そうな顔をした。
「傭兵団長のグスタフ・フォン・ビッテンフェルトだ。
一応俺の親父だ」とスーに教えた。
「入団したいんだと」と俺が伝えると、親父は露骨に嫌な顔をした。
「ガキじゃねぇか?
まだ15、6ってとこだろ?やめとけ」と取り付く島もない。
あーあ…やっぱりなー、と思ってると、スーが首を傾げてとんでもない言葉を発した。
「僕は63歳だ」
「…は?」今なんつった?
「僕は君たちが思ってるより長生きだ」
「…お前…人間じゃないな?」と親父が訊ねると、スーは頷いて髪を掻き上げて耳を見せた。
人間とは違う、少し形状の異なる耳が晒される。
「母はフィーア人だった」と彼は言った。
「マジか?驚いたな…どっから来た?」
「アーケイイックフォレストの北のアールーキナーティオの森から」と彼は澱みなく答えた。
嘘や冗談を言っているような感じではない。
「その話、他にするなよ」と親父が念を押した。
「お前は珍しい存在だ、騒ぎになる前に帰った方が身のためだぞ」と警告まで与えていた。
それでもスーは「帰らない」と答えた。
「ずっとこんな調子でよ、あんたより頑固そうだ」
そう苦笑いしながら親父に言うと、親父も困ったように眉を寄せた。
「使えんのか?」と単刀直入に親父が訊ねた。
「一応魔法が使えるってのと弓が引けると言う話だ」
「ふむ」と親父も腕を組んで思案するような顔をした。
即戦力なら欲しい気持ちは同じだ。
しかし、この青年の出自を聞いたら不問というわけにもいかない。
黙って親父の判断を待った。
結局ここを取り仕切ってるのは親父だ、俺は従うだけだ。
「あなたが此処で一番偉い人なら、僕をテストしてよ。
役に立つから…お願いだ」
「…仕方ないな…」と親父は不承不承といった体で頷いた。彼自身、この不思議な青年に興味を引かれたのだろう。
「使えなかったら帰れよ」と俺と同じ事を言っていた。
「お前、剣は握れるのか?」と訊ねると彼は「一応」と答えた。
「握ったことはあるけど、実際他の人と戦ったことがないからよく分からない。
弓の腕は自信あるよ」
「なら弓の腕の方を見せてもらうか…」
そう言って中庭に彼を案内した。
三方を回廊に囲まれた、馬を放せる位の広さの中庭だ。
此処で訓練や入団テストをしていた。
「あそこに弓の的があるだろ?」と回廊のない壁を指さした。
「大きい的だね」と彼は等身大の人形を見て笑った。
「どこに当てたらいいのさ?」と紫の瞳は自信満々だ。
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