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✩.*˚
初めて家族以外の人間と話をした。
母から教えられていたライン語と公用語は、一応ものになっていたらしい。
下手くそかもしれないが、ワルターと言う男は僕の話をよく聞いてくれた。
「泊まるところもないんだろ?」と世話を焼いてくれた。
彼の寝泊まりしてる部屋は拠点のすぐ側にあった。
狭くて散らかっていたが、路上で寝るのよりは絶対マシだ。
薄い壁でも寒さを凌げるのなら文句はない。
「此処で顔が知れるまではしばらく俺から離れるなよ?
親父は認めてくれたが、お前はまだ名前も顔も知れてない新人だ。
それに、お前は女みたいな顔してるから、変なところに連れ込まれてイタズラされるかもしれないしな」
僕の身を案じてくれているようだが、意味はよく分からなかった。
とりあえず、彼の親切に甘えた。
「金は持ってるか?
ってかそもそも金が分からんか…」
「物を交換する?」
「まぁ、そんなもんだな。
ちょこちょこ知識はあるんだな」と彼は灰色の目で僕をチラリと見た。
母がら聞いたと伝えると納得していた。
「前金は貰えるだろうが、足らなかったらしばらく貸してやるよ。
要るもんがあったら言いな」
「ありがとう」
彼の親切に礼を言うと、ワルターは困ったように頭を掻いてため息を吐いた。
「お前本当に危っかしいな…
いいか?知らない奴から金借りるなよ?
親切な奴ばっかりじゃねぇんだ。
お前のために言ってるんだからな?
ここにいるのは普通じゃ生きていけない、訳アリのゴロツキばっかだ。
気を抜くとすぐに食いもんにされるぞ」
「分かったよ」
「ホントかよ…まぁ、いいけど…
俺はお前を雇ってるから世話焼いてやってるが、役に立たなかったらすぐに見捨てるぞ」
「じゃあ君の役に立つよ」
「はいはい、そうして貰えると俺は助かるね」と彼は大して期待していない様子だ。
彼は僕に契約内容を分かりやすく教えてくれた。
知らずに門を叩いたが、ここの傭兵団は貴族からの要請に応じて部隊を送るそうだ。
とりあえず新人は一年の契約らしい。
前金で契約金の半分を受け取って、自分で装備を整え、残りは契約終了時に渡されると聞いた。
それ以外の支給は手柄しだいだという。
死んだらそれまで、怪我しても見舞金を僅かに渡されて厄介払いされる。
それでも他の傭兵団よりは割と良心的らしい。
ビッテンフェルト家は下級騎士という階級らしいが、この街の名士で、貴族からの信頼も厚い。
「いきなり激戦区に放り込まれても文句言うなよ」と彼は笑いながら僕を脅かした。
「仲間に紹介してやるよ」と彼は僕を自分の宿舎の外に連れ出した。
「腹減ったろ?うちのヤツらの行きつけの店に連れてってやるよ」
「うん」
この街には着いたばかりで何も知らない。
ただ、僅かな知識と運だけで此処にたどり着いた。
ワルターは外套のフードを被ってるようにと僕に指示した。
僕の姿は人間の国だと目立つらしい。
彼の指示に素直に従った。
黄昏に染まる広い通りは、人がごった返していてワルターの背中を見失いそうになる。
人混みに慣れてないから、人とぶつかるのが怖かった。
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