ワルター

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「他の仕事を紹介してやれ」と苛立たしげに言ったフリッツも、腕を組んで乱暴に椅子に座り直した。 「おチビちゃん、俺たちがどういう仕事してるのか知らないのかい?」と金髪から覗くタレ目の男が僕に訊ねた。 テーブルに肘をついて、背中は猫のように曲がっている。 「手遅れになる前にさぁ、止めといた方がいいと思うぜ、俺は」と、手に持ったフォークをクルクルと回しながら、軽い感じで言った。 彼も僕に「他にも仕事なんてあるだろ?」と勧めた。 「やれやれ」とワルターはため息を吐いく。 「俺だって最初は反対したさ。 でもこいつも頑固でさ、なかなか引き下がらないんだよ。 仕方ねぇから、親父とテストしてやったらコレが即戦力でさ、他所に行く前に俺が引き取ったんだ」 ワルターの言葉に男達の顔がまた険しくなる。 「お前も、親父さんも何考えてんだ?」 「弓と魔法が使えるから役には立つはずだ。 俺も親父もそれは保証する。 それに、こんな可愛い見た目で、ほっぽり出してトラブルに巻き込まれたら目覚めが悪いだろ?」 「にしてもさぁ…なぁ?」とタレ目の男は向かいに座った灰色の髪の男に話しかけた。 彼は機嫌悪そうに眉を顰めてワルターを睨んでいる。 「お前ら、ガキガキ言ってるけどな、こいつは俺たちより歳だけは上なんだぜ」 ワルターはそう言って、席を立つと僕の外套のフードを取って彼らに見せた。 「こいつらにだけ、耳見せてやんな」 ワルターに言われるがまま、耳にかかった髪を掻き上げて見せた。 耳を見て、彼らは息を飲んで口を噤んだ。 「お前幾つだっけ?」とワルターが僕に訊ねた。 「63歳」と答えると彼らは驚いたように目を見開いた。 一人だけ何故かふふっと笑ったが、ほかの四人はほぼ同じ反応だった。 「…ろくじゅ…」 「嘘だろ?」 「半分人間なんだと」とワルターが言った。 「な?だからちゃんと話聞けよ。 ウチの期待の新人だ」 「…でもガキだ」とフリッツは不満げだ。 そんな頑固な彼にワルターは笑った。 「ガキだと思うなら面倒見てやれよ、先輩。 頑張って田舎から出てきたんだ」 「何処から来た?」と隣になった猫背の男が訊ねた。 「アーケイイックの北から」と答えると彼は「へぇ」と言って手のひらを差し出した。 「さっきスーって言ってたっけ? 俺はエルマー・クラインだ、エルマーでいい」 恐る恐る差し出された手を取って握手した。 僕の様子を見て、「噛み付きゃしねぇよ」と笑った。 「向かいの赤毛の鬼みたいなのがフリッツ・ウェーバー。 その隣の目つきの悪い陰気な髪の色した奴がヨナタン・トゥーマン。 その隣の影薄いのがソーリュー・ハフリ。 俺の向こうに座ってんのがオーラフ・マイヤーだ」 彼はワルターの代わりに仲間を紹介してくれた。 「僕はスペース」と名乗ると彼は「よろしくな」と頭を乱暴に撫でた。
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