ワルター

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彼はワルターに向かってニヤニヤ笑いながら、「お前もこっちの趣味があるのかと心配したぜ」とからかった。 「馬鹿言え、男でしかもガキだ」とワルターが苦笑いして答える。 彼は慣れた様子で料理を注文して、僕の前に並べると「入団祝いだ」とご馳走してくれた。 暖かい、ちゃんとした料理は久しぶりだった。 しばらくの間、携帯用の干し肉や、干した果物くらいしか口にしていなかったから、塩気が効いた湯気の立つ料理がご馳走に感じられた。 「誰も取りゃしねえよ、ゆっくり食いな」とワルターは楽しそうに笑っていた。 また子供扱いされた気がしたが、悪い気はしなかった。 「ワルター、ギュンターには気を付けろよ」とヨナタンがワルターに警告した。 知らない名前に首を傾げると、ワルターは眉を寄せて、「…分かってるよ」と応えた。 「あいつまたウチから引き抜いた奴を使い捨てやがった」とフリッツも苛立たしげに呟いた。 「エメリヒ達みたいに渡すなよ?」 「分かってる。 今はそんな話無しにしようぜ、スーの歓迎会だ」 「大事な事だろ?」とオーラフも口を挟んだ。 「スー、お前可愛い顔してんだ。 誰にでもホイホイ着いて行くなよ?」 「小さい子供じゃないんだ、そんな事しないよ」と僕が答えるとエルマーは「どうだかな」とため息を吐いた。 ここにいる面々は割と世話焼きだ。 一人殆ど発言しないソーリューという男は、一足先に食事を終えて一人だけ仮面を着けていた。 顔の下半分を覆う鬼のような仮面は、見たことの無い意匠だ。 僕の視線に気付いて、彼はチラリと僕を見たが、何も言わずにまた視線を外した。 「ソーリューはお前と同じで異国からの流れ者だ。 武者修行とかで海の向こうのジュホンって国から来たらしい。 ちと変わってるが、腕は立つし、悪い奴じゃないから仲良くしてやってくれ」 「ワルターがそう言うならいい人だ」 「俺を基準にするなよ」 「いや、割とこいつは人を見る目があるかもな」とフリッツが笑った。 怒ってない彼は陽気で人が良さそうだった。 「どこで知り合ったんだ?」とエルマーがワルターに訊ねた。 「拠点の正門で看板の用意してたら、こいつの方から声をかけてきたんだ。 文字も一応読めるみたいだな」 「へぇ、字が読めるの?すごいねぇ」 相変わらず緩い口調でエルマーが感心した。 「母さんが教えてくれた」 「育ちのいい親だな、俺は単語ぐらいしか読めねぇよ。 他の奴らも読み書きはそんなに得意じゃねぇんだ。 いつもワルターとヨナタンの世話になってる」 「ヨナタンは愛想は無いが頭は良いからな」とワルターが相槌を打った。 当の本人は不服そうな顔でワルターを睨んでいる。 「まぁ、ここにいるのは何かしら問題児だ。 仲良くしようぜ」とエルマーは僕の背を叩いた。 「まぁ、入っちまったもんはしゃーないから、一年は死なないように見張ってやるよ。 一年もしたら音を上げて他に行きたくなるだろうさ」 「一年ならまぁ…」とフリッツ達は渋々妥協してくれた。
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