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それから、マヌエルはクレンジングジェルを手に取って、今度は俺の顔に指を乗せる。額、瞼、鼻、頬、口許、顎とゆっくり手を滑らせていく。
その触れ方はどこか官能的だった。
自らそれを求めておきながら、気恥ずかしくて、今直ぐ立ち去りたくなってしまう。
次第に胸が苦しくなっていき、縋るもの欲しさにマヌエルのバスローブをギュッと攫むと、ずるりとバスローブが緩んでマヌエルの厚い胸板が露わになって。マヌエルはあのポートランドの晩のように噴き出していた。
「動かないで。」
そう言って最後に俺の唇をクレンズする。
前回以上に何度も繰り返し指の腹で撫でられると、身体の中心に熱が籠るのが感じられ、甘い痺れが背中を走った。
ロマンチックな展開——
そう思った直後、マヌエルはふ、と優しく吹きかけ、鼻を優しく抓ってクスクス笑っていた。
なんだ。前と同じか。期待したのに。
「おしまい。後は顔、洗うぞ。」
二人で洗顔フォームで顔を洗って、フェイスタオルで拭き、目の前の鏡に映る自分を見た。
大きな化粧鏡の向こうにあるのは、女の格好をして、女になり切れもしなかった、化けの皮の剥がれた狢——のっぺらぼう——の顔だった。
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