番外編『お友達』

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    *  *  * 「天城さん!?」  真理愛の高校入学を控えた週末。  圭亮が真理愛と二人で買い物に行こうかと駅へ向かう道中だった。何気なく擦れ違った背の高い少年に名を呼ばれて、真理愛が振り向く。 「え、え? あ、匠く、え、っと」  顔を見た途端、記憶を探るまでもなく真理愛には相手がすぐにわかったらしい。 「うわ、久し振りだね~」 「……なんで『天城さん』よ。あたしも『吉村さん』て呼んだ方がいいのか、って迷っちゃったじゃない」 「あー、いきなり名前で呼ぶのもどうかなと思ってさ。でも確かにそうだよな。真理愛ちゃん」 「……真理愛、えーと、──」  二人が偶然の出会いに盛り上がっているところに、圭亮はおずおずと口を挟んだ。 「すみません、御無沙汰してます。僕、吉村 匠です。真理愛さんと小学校で一緒だったんですけど」  匠が恐縮したように頭を下げるのに、真理愛が言い添える。 「パパ、何度も会ってるでしょ? 忘れちゃった?」  その言葉で、圭亮の頭の中に浮かんだ『匠くん』のぼんやりした像が、目の前の大人びた彼の姿と重なった。
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