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もう一度そばに
小さな頃はおにいちゃんと呼んでは、僕がいくところについて回った。
なにかを企んだりいたずらを考えているときは、くちびるを尖らせていたから直ぐに分かったけど、僕はわざとそれに付き合った。
呼び方は「にいちゃん」から「おにい」になり、いつしか「あにき」に変わっていった。
呼び方が変わっても君は変わらない。
僕らは世間でも羨む仲のいい兄妹だった。
大人になっても僕が仕事で悩んでいると、朝まで電話で慰めてくれたりしたね。
そんな君がくちびるを尖らせることが多くなったことに僕は気づかなかった。
僕は仕事が忙しくなり、君の変化に気づかなかった。
君のポケットには診断書が隠されていたんだね。
いつか撮ったポラロド写真の中の君は、指の隙間から海をかき上げた水滴を飛ばして微笑み掛けている。
写真の中の君は色を失っている。
でも思い出は綺麗な色を失うこと無く輝いたままだ。
それはその時感じていた色よりも多彩で、とても美しい。
君が生きていた頃より、美しく蘇る。
電話ごしの君のささやきは忘れない。
もう一度、僕に笑いかけて欲しいけど。
僕は椅子によりかかり、顔に読みかけの雑誌を乗せて夢を見よう。
夢枕に君が立つことを願いつつ。
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