ロマンスのゆくえ

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ロマンスのゆくえ

風が強く、何度か東京上空を旋回していた。 脳細胞のように明るい塊とそれを結ぶ光の道が縦横無尽に張り巡らされている。 何年も離れていた訳じゃないのに、知らない街に見えた。 ほんの数時間前の彼女の温もりと匂いが一瞬だけ体を包んだ。 そして消えた。 「一緒に東京に行かないか?」 そんな言葉を何度言いかけたことか。 何度、ワインと共に飲み込んだことか。 言えなかったんじゃない。 答えが分かっていたから、言わなかったんだ。 『ごめんね。旦那がいるの分かってるでしょ』 僕が強引な男なら違っただろうか。または彼女を独り占めしたいと思わなければ、今も一緒にいただろうか。 過去に遡れば変えることは出来るだろうか。 今居る世界と並行に進む別の世界線のなかで、僕は彼女と暮らしているだろうか…。
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