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「フフフフフ。飲んでみれば、田中さんと腹をわって話せるかと思いましてねフフフフフ」
「ありがとうございます。でも、部長まで飲む必要は……」
「私もハメをはずしてみたっていいじゃないですか!」
笑い上戸になりかけていた観音様はいきなり不動明王に変わった。
僕は大魔人――埴輪顔の守護神が憤怒の形相に変身する映画を思い出した。子供のときに見た大魔人の顔はトラウマものだったけど、今でも怖いと思う。
部長の変化は僕に大魔人の恐怖を呼び覚ました。ただただ怖くて、どうすればいいかわからない。すると――、
「今日くらいハメをはずさせてくださいよぉ」
と、部長は泣き崩れた。薄毛の頭が嗚咽とともに揺れた。もはや大魔人ではなく、赤子のようだ。よしよしと抱擁してあげたくなってくる。
おかげで恐怖心はなくなった。なくなったけど、僕の相談はどうなるのだろう。この調子だとまともに話せない気がする。結局、どうすればいいかわからない。こういうときは……、酒の力に頼る!
ウイスキーボトルから小麦色の液体を空いたグラスに注ぎ、口に入れこむ。度数が高い酒を炭酸水などで薄めずに飲むと、喉や頭に一気に刺激が伝わり、動ける気がしてくる。まるで、石炭を燃やされた機関車みたいに、熱くなった体と心がはしゃぎだす。
「早く僕の相談にのってくれ!」
「なんだキサマは!」
部長は大魔人に復活し、がたりとイスから立ち上がった。
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