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「私としたことが。妖と間違えるなんて……いやぁ、失礼いたしました」
と、部長は自分がいた席に泥棒を座らせた。
泥棒と画面ごしに見つめ合うことになった僕は、思わず吹き出した。泥棒が、有名な映画のヒーローマスクをかぶっていたのだ。
……泥棒がヒーローって、おかしくないか? いや、鼠小僧とかいう義賊話もあるから、ありなのか?
泥棒のヒーローマスクが僕の笑いのツボをじわじわと刺激してくる。
「おい、通報するなよ、絶対通報するなよ。通報したら、こいつの命はないぞ」
お笑いなら“通報しろ”というフリかもしれない。けど、泥棒は拳銃を振りかざしていて、僕の笑顔が凍りついた。シーリングライトの下で鈍い光りを放つ拳銃を目にした僕は、部長の危ない状況をようやく理解した。
そんな中で部長は……飲んでいってください、と未開封の缶ビールを泥棒に差し出したのである。
「……え。部長! なにやってるのですか」
「え、なにって、妖間違えのお詫びですよ」
「でも、相手はどろ――」
「ぷはー。強盗先で酒もらえるなんて最高」
部長とやり取りする間に、泥棒はビールを一気に飲んでいた。そして、泥棒自身が“強盗”と言っているのに、部長はもう一缶出してきている。
「オッサン、一缶でいいよ。俺、まだ仕事の途中だからさ」
「それは失礼いたしました」
「だからさ、仕事早く終わらすために、ここにあるカネくれよ」
泥棒はビールのお礼も言わずに、横柄にカネを要求し、優雅にも側にいるニャンコさんをなでた。
盗人猛々しいものなのかもしれない。けど、ニャンコさんをなでるのはずるい! 僕はお触りできないのに、赤の他人のしかも泥棒がもふっているなんて――!
「クズがニャンコさんを触るな! とっとと出てけ!」
酒のせいか、僕は腹立ちを抑えられず、泥棒にわめき立てた。
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