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「クズの人間なんていないです! 人間はみんな尊い生き物なのです。人間は人間であり、ゴミクズではありません!」
まさか、部長が言い返した。拳銃を向けている相手をかばうようなことを口走り、僕に対してまた大魔人になっている。
怒る相手が違うと指摘したくなる。でも、僕は部長の言葉にハッとした。ミスばかりする自分はクズだと、自分を自分でけなしていたことに気づかされてしまった。
……そうだ。僕は人間で、クズではない。
「ぶちょ――」
「オッサン最高だな!」
僕の部長愛が弾けそうになったところ、泥棒に先を越された。
「あんたからカネを奪うのはやめとくよ」
酔っぱらいはもう寝ときな、と泥棒は部長を座らせ、電気を消した。パソコンのブルーライトにぼんやりと部長が照らされる。
部長はそのまま眠りだし、僕は部長との接続を切り、オンライン飲み会は終了した。
事件になりかけたオンライン飲み会の数日後――。
「なんででしょうか。最近、部屋にあった文庫本が減ったみたいなんですよねぇ」
一緒に昼食をとった食後、部長がぼやいた。
スマホでネットニュースを眺めていた僕は、「えっ」と声をあげてしまった。
「ぶ、部長。あの映画のヒーローを名乗る者から児童養護施設に一億円と文庫本の寄付があったそうですよ。もしかして、あの泥棒が部長の文庫本を――」
フフと、部長は穏やかに目じりのシワを濃くした。
「だといいですねぇ。間接的に私も寄付できたことになりますから」
了
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