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「ちょっと横にさせてくれ」
「どう考えても床はひやりとするから、おなか壊すぞ」
「や、いい、壊した方が良い」ペン太郎は銀之助の助言を引き取る。
「壊しても、強制的に歩かされるぞ」
鳥次郎は真剣な顔をペン太郎に向ける。
「それに、体壊したら隔離生活を強いられるぞ」
銀之助も真剣な顔を向ける。
「なんで?」
「もしそれが、ペンギン由来の感染症だったらどうする?そりゃ隔離生活突入だよ」
「いや、殺処分なんてのもありうるな」
この会話を食い気味に、プーというサイレンが鳴り響く。12:45分から始まるペンギンたちの行進の合図だ。
「ああ、鳴っちゃった」
ペン太郎は愕然とした表情を見せた。
「大丈夫。オレがお前の前に出て極力前が見えないようにするから。目閉じてれば少しは楽だろ」
鳥次郎のアシストに、ペン太郎は感謝を忘れず、申し訳ないと自然に言葉が出た。
ペン太郎は済まなそうな顔を見せてニッと笑みを浮かべたが、口から昨日食ったイワシがそのまま飛び出しそうになったので、すかさず口を押えた。
「済まない、頼む」
これでペン太郎は鳥次郎の後ろでぺたぺたと歩くこととなった。
この水族館は三重県にある志摩オーシャンハウスという名称で、地元民に親しまれている。
このペンギンたちの行進は、先程のペンギン飼育小屋から直進し角を曲がってすぐの、ペンギン池という、人工池までの5分間。観客の間をペンギンたちがぺたぺたと歩いて行く催しだ。
「はーい!今から、ペンギンさんたちのお散歩が始まるよ。レッツラゴー」
飼育員はペンギンたちの苦労はいざ知らず素っ頓狂な声を上げて、見物人たちの注意を促した。
そのペンギンたちは、20羽ぐらい待機部屋である飼育小屋に無理々々に押し込まれていたので、開いた瞬間ペンギンたちが雪崩れるように出てきた。
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