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女性飼育員の溌溂とした声が周囲に発せられる。
「もう半分以上過ぎましたよ。でも撮影禁止ですよー。そこの男の子スマフォ構えちゃダメダメだよー」
飼育員は明らかに陽気だ。仕事とは言っても自分もペンギンの行進に魅せられているようだ。
「このペンギン、前のペンギンに引っ付いて歩いてる。かわいいー」
「ホントだな。これ見るとホントにチビの頃の武を思い出すよなぁ」
「確かにそんな印象受けるわね」
「あの前のペンギンにくっ付いてるペンギン、顔が灰色になってない?黒いはずだけどなぁ」
「病気なんじゃない?」
「まさかぁ。病気だったら行進なんかできないよ」
「それもそうね」
観客たちは、この文字通りのペンギン歩きとその可愛らしさに吸い込まれるように魅了されていた。とろけそうなぐらい。
ただ、ペンギンたちはそれを知らない。
「オレたちってフンボルトペンギンって言うんだって」銀之助が唐突にしゃべりだした。
「やっぱ、いろいろな種類があるわけだな、ここにもオレたちフンボルトだけじゃないもんなぁ」鳥次郎は納得する。
「でも種類が違うからって、殺し合いはしない」
銀之助と鳥次郎の会話に、ペン太郎は容喙する
「もう終わりじゃない?」
ペン太郎の限界点がもうすぐ来そうだ。
「もうちょこっとあるけどがんばれ」
鳥次郎は応援を欠かさない。
「おえぇー」吐きそうになるもペン太郎は立て直す。
「大丈夫か?」
銀之助も心配そうな表情で、ペン太郎の顔を覗き込む。
「…なんとか…」
「頼むから、おれの背中にぶっかけないでくれよ、な~んてな」
鳥次郎の茶化した言葉に、ペン太郎は裏切られた気分になるも、これも立て直す。
「確証は出来ないけど、がんばる」ペン太郎は必死だ。
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