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「もう少しになってきた。あの角を曲がれば、ゴールのペンギン池だ」
銀之助が嬉しそうに現状確認をして励ましている。
3羽のペンギンは、ゴールに近づいたので早歩きになった。
ペン太郎のお腹がぐるぎゅりゅぐーと鳴り、苦悶の表情をする。
最大級の悪寒が体を貫く。
「まだか?」もうペンギンではなくひよこ歩きになっている。
「頑張れよ。オレお前に賭けたんだから」
「賭け?」
唐突な言葉の表現に、ペン太郎はなんだか認識できない。
「2羽でね。ペン太郎が無事ゴールまでたどり着くっていう賭けをね。そいで、オレは途中で挫折する方に…」銀之助は照れ笑いを浮かべながら、ここで言葉を切った。
「お前らなぁ~。うっ」ペン太郎は翼でくちばしを押さえる。
もう限界点は越えているんじゃないか。
「でも安心しろ。本音は無事にゴールしろと願っているから」
銀之助は、言い訳になっていない言い訳を口にしながら、現状を繕った。
「おっ角だ!」鳥次郎が励ます。
「もうゴールだ」銀之助も励ます。
「ゴール!」銀之助と鳥次郎はペン太郎を元気付けるように、わざと大きな声を出した。
「みなさーん。ペンギンさんたちがお池に到着しました。これからはフラッシュをたかずになら写真OKですよ」
まだ、新米で若そうな女性飼育員が、慣れた口調で注意事項を告げた。案外と年増なのかもしれない。
「ふーそうか、なんとかゴールだ。良かったぁー」
するとペン太郎の顔色の血色が、見る見るうちによみがえってくるのが明らかに分かった。
ペンギン池には業務用のかちわり氷が、所狭しと敷き詰められていて、立錐の余地もないほどに浮かんでいた。
「うひゃー、つめてぇー、気持ち良いー」ペン太郎が歓呼の声を上げた。
「おいおい、身体大丈夫かよ」
鳥太郎が心配そうに訊く。
「オレ、ペンギンだぜ」
ペン太郎がなぜか自慢そうに言うので、他の2羽は吹き出してしまった。
「お前、良く言うよ。フンボルトのくせに顔色が灰色になっていたんだぜ」
銀之助が笑いながら突っつく。
するとペン太郎は、銀之助と鳥次郎を交互に睨んだ。
「すまん!今回の賭けはイワシ1匹だったから、それをお前にやる!」
銀之助と鳥次郎は平謝りに謝る。
ペン太郎の表情が優しくなり、笑いながら「いいよいいよ。なにも、怒っていないから。応援が身に染みていたんだよ」ペン太郎はすかさず本音を漏らした。
「ありがとな」
「こちらこそありがとな」
ペン太郎の純粋な気持ちに2羽とも安堵した。
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