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新旧悪夢が混じり合い
結局、私の帰る場所は一つしかない。
見慣れた我が家は、もうすぐそこだ。
安心に包まれるはずの唯一は、幸せの残骸が散る色褪せた場所になってしまったけど。
メールで帰ると返事した。
すぐ携帯が鳴ったけど出なかった。
ドアを開けたら目の前に夫がいて、顔をくしゃくしゃにして良かったと、帰って来てくれたと、私の名前を呼びながら、泣きながら、安堵の言葉をしきりに呟いている。
……声が遠い。
間近にいるのに不思議と内容が少しも心に響かないし、どうせポーズでしょ、と捻くれた考えが頭を過ぎる。
「……うざい。あっち行って」
「ま、真紀ぃ……」
「今は信じられないの。何を言われても嘘にしか聞こえない。不倫しつつ家庭を築いていた神経が分からないし、人様の家庭を壊すような行為を平気で出来る人の言葉に、重みなんてない。聞くだけ無駄」
まだ心がささくれだっている。
だけど今朝よりマシだ。
中谷さんに怒りをぶつけたことで、少し冷静さが戻って来たような気…が……す……………あ。
どこかでカチッと噛み合う音がした。
『怒りのやりどころがないのなら、私が受けてもいいと思っている』
ポケットの中のハンカチを握り締める。
大変な思い違いをしてしまったのかもしれない。
中谷さんは私より歳上で、有名な会社に勤めていて、修羅場になっていてもおかしくないあの事実を冷静に淡々とまとめ上げた人。
そして、誤解するような分かりづらい気遣いをする人だった。
………もしかして、アレわざと?
わざと怒らせるような事を言った?
……いやいやいや、いやいやいや。
確信は持てない。持つほど中谷さんを知らないし、自分が異常な精神状態だと自覚してもいる。
とにかく明日。
明日会うと決めたから、その時にでも真相を聞いて、今思ったことが万が一にも本当だったりしたら、頭を床に擦り付けてでも誠心誠意謝罪をし、
「真紀、真紀ごめっ、あ、違っ……いや違ってない。許されたいから謝ってるんじゃなくてただ、俺を信じてくれなくてもいいから、そばには居させて欲しくって……」
まだ居たんだ。
「そう……じゃあ、好きにすれば。どうせ遅かれ早かれ決断しなきゃいけないし」
「……離婚は嫌だ。勝手なことばかり言ってごめん。でも真紀と離れるなんて死んでも嫌だ」
「ふーーん。散々離れて遊んでたくせにね」
何回死んで生き返ってるのよ。
「っ、そ、それは……」
「信じなくていいんでしょ。いちいち狼狽えないで。それと今日から家のことはしない。裏切ってた人の為にすることは何もないから。答えが出るまで考えに集中したいの」
「……分かった。真紀はしなくていい。全部俺がやるから」
しなくていい……か。
余計な一言に消えていた怒りが再燃するのを感じた。
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