気が合いますね

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気が合いますね

「真紀さん、貴女はとても理性的な方だ。私の勘違いでなければあの話し合いの時、貴女は懸命に感情を抑え込んでいた。香織にも自分の夫にも。ただ、逃げ道を用意した私には挑んできた。真っ直ぐに、知りたくないことを聞くと言い切って」 言いましたね。 その時は八つ当たりしただけなんだけど。 某有名店の靴を受け取る受け取らないの攻防の末、落とし所は交換という形で収まった。 中谷さんの横には菓子折り、私の横には靴 ( 古びたスリッパ添え ) が置かれている。 あまりの金額の違いに恐縮だけど、彼は彼で納得がいかないようだ。 また配慮を欠いたのにと、どれだけ中谷さんが悪かったのか、説得を試みられているところ……らしい。 よく分かんない人だ。 「それだけじゃない。私が提案した三つのものはパフォーマンスだ。最初と二つ目はカムフラージュとちょっとした意趣返しのつもりで言った。本来なら真紀さん、貴女が怒ってもいい内容で話したんだが……反応したのは夫の方だったな」 ああ、覚えている。 離婚しなければこうだ、離婚したらこうだ、なんて勝手に話しが決められていたし、子供の父になる発言も怖いと思ったもの。 「真紀さんの意思を敢えて無視したのにスルーする冷静さ。最後の三つ目を迷わず選ぶ潔さ。貴女はどんな時でもきっと、自分にとって正しい選択が出来るだろう。だが……必要以上に物事を見るあまり、感情の吐き出し方が上手じゃない」 これは、褒められているのか貶されているのか。 判断に迷うけど、まだ続きがありそうなので黙っておこう。 「つまり私と似ていると。気が合うと思った」 「えっ! そ、そうですか……?」 黙れなかった。 声も裏返ってしまった。 に、似てる? どの辺が? 正反対でしょ?! 「ああ。抱え込んで悩むタイプだ。放って置けなくて頼って欲しいと思った。でも真紀さんは私には怒りをぶつけないと……初めは挑んできたのに少々落胆してしまったよ。だからつい、ああいう言い方で煽ってしまった。すまない。あの発言は撤回する」 ……やっぱり。 そういう分かりづらい意図はやめて欲しかった。 あと、中谷さんも抱え込むタイプ? 嘘でしょう? 全く信じられないんですけど。 「じゃあ私も撤回します。酷いこと言って殴ってすみませんでした」 「いや、あれはあれでいいんだ。そう仕向けたのは私だし、愛のない結婚なのは本当だからお似合いって言葉は的を得ている」 ……この人、本当に嫌味じゃないよね? 反応しづらい事を言わないで欲しい。 「複雑な顔だな。まぁ、真紀さんはそうだろう。愛に殉ずる純粋さがある。だが私は、愛がなくても結婚は出来るし抱こうと思えば抱けるんだ。最低だと思うかい?」 思います!! 頷きそうになるのを必死で堪える。 中谷さん、私達、全然気が合わないですよ!!
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