466人が本棚に入れています
本棚に追加
答えは出ている
どうしよう。帰りたくなって来た。
でも殴った手前、非はどう考えても私の方にある。
言い出しづらい。
だったらさっさとこの会話を切り上げて、中谷さんには仕事に戻って貰うとしよう。
「最低というか……そういう考えもあるかもしれないですね」
ある意味、中谷さんは正直だ。
夫は、妻に愛してると言いながら、大切だと言いながら違う誰かを抱いている。
欲だかなんだか知らないけれど、そういう器用さというか二面性に嫌悪感が拭えない。
私は無理だから。
愛したらその人だけ。
そう思うと、中谷さんの言葉に呆れはするけど嫌ではない。考え方の相違。それだけだ。
「優しいんだな。だから君の夫はつけ上がった。
愛されている幸せを捨て、欲というその場限りの快楽に流された。真紀さんの考えを聞きたいんだが……愛とはそもそも余所見が出来る性質なのか?」
「いいえ。余所見出来る愛は愛じゃないと思います。愛と勘違いしているだけか、その程度の熱量しか込められてないか。紛い物ですよ、裏切れる事自体が」
「だな。私も同意見だ。つまり真紀さんの夫は真紀さんを愛していない、ということでいいのかな」
……ズバッと核心をつかれた気がする。
もしかして私は、誘導尋問よろしく目を背けていた答えを導き出されたのかもしれない。
今は信じられないと夫に言った。
でも違う。
本音は夫の愛が信じられなくなった、嘘で塗り固められた偽物だと気付いてしまった。
私は結論が出ている。
怒りや悲しみ、悔しさ辛さに惑わされただけで、既に分かっていたのだ。
愛してる人を傷付ける行為をする人がどこにいる。
大切で大事だと思う人を裏切れる人がどこにいる。
その想いが本気なら、本当なら、尚更。
夫は私に本気じゃなかった。本当でもなかった。
香織を口説ける余裕が心の中にあって、その場所に私は居なかった。
香織と逢瀬を繰り返し抱ける時間を作れても、その時間を私に向けなかった。使わなかった。
欲だと夫は言うが、欲だけならば香織に好意を持たれるような接し方はしない。
それこそ前戯もそこそこに、相手のことを考えず自分勝手に突っ込んで腰振って吐き出せばいいだけだ。
でもそうじゃない。
恥ずべきメールを交わし合い、子が欲しいとまで思わせるような態度を取っていた。
だからこうなった。
故に、なるべくしてなっている。
私は知っていた。
答えが出ないのではなく、出したくなかったのだ。
そんな事実を明確にすれば、今まで夫と二人で築いた幸せまで壊すような気がして。
間違っていたのだと、突き付けられるような気がして。
中谷さんの視線が痛い。
この人は、どこまで見透かしているんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!