判決の時

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判決の時

乗せられたのか、背中を押されたのか。 最初から中谷さんの手のひらで転がされてたのか。 妙な気分だけどスッキリしている。 帰って来た夫に封筒を差し出した。 中身は離婚届。 見る前に悟ったのだろう。 首を振って受け取ろうしない。 それどころか、性懲りも無く愛と謝罪を口にする。 夫は自分の愛が偽物だと気付いていないのだ。 だから、最後の情けで引導を渡してあげる。 「私は、誰かに分け与えられるような愛は望んでいないの。貴方は違うと言うかもしれない。だけど香織との間にあったのは欲だけじゃないよ。同じ時間を共有し会話を楽しんだ。何度も身体を求め合い快楽を追求した。ねぇ、愛する人と欲の相手、接し方の何が違っていたのか教えてくれる?」 「俺は、俺は本当に真紀だけを……香織じゃない。香織じゃないんだよ」 「いいえ。貴方は香織に好意を持っていた。だから色んな時間、場面を楽しめた。好みじゃないなら相手にしない。ピンポイントで特定の誰かを不倫相手に選んだ時点で、私への愛は愛じゃなくなってるの」 「違うっ!」 「違わない。欲だけなら香織じゃなくても良かったでしょ。私でも、そういうお店でも良かった。なのに貴方は香織を選んでいる。そういうことよ」 「違う、違うから……っ!」 分かって欲しい。 自分の間違いに気付いて欲しい。 離婚を考えたのは子供のことが原因じゃないの。 香織が身篭っていようがいまいが関係ないの。 貴方の態度が思考を決定付けている。 否定しても見えてしまう。 貴方は私を愛していなかった。 欲を優先させた事が何よりの証拠。 今は辛いでしょう。 後悔しているでしょう。 でもそれは、悪い事をした、という自分に酔ってるだけ。今まで自分のモノだと思っていたモノが、擦り抜けた喪失感に苛まれているだけだから。 嫌々と喚く夫。 違う違うを連発する夫。 ああ、まだ気付かないのか。 「離婚してくれないなら私も不倫する。丁度誘ってくれた人がいるの。で、その人との子を作るわ」 「なんだって?! そんなの許せるわけないだろっ! 誰だよそいつ! 俺の真紀に……っ、」 激昂してから自分の発言のマズさに気付いたらしい。自分は良くて私はダメな理由……それは愛じゃない。身勝手にも自分の欲は解消するくせに、妻には貞淑でいろと求めているだけ。理想的な妻でいろと押し付けているだけだ。 愛されることを望むなら愛しなさいよ。 大切にしなさいよ。 裏切りの言い訳に欲を使うな。 ちゃんと自分の感情に正直でいろ。 嘘をつくな。 いい子ちゃんになろうとするな。 汚く醜い自分に蓋をしようとするな!! 色んなことを言ったと思う。 最後は夫も……離婚に同意してくれた。
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