追加エピソード その後の香織

1/1
前へ
/39ページ
次へ

追加エピソード その後の香織

「君との結婚生活を終わりにしたい」 夫に子供のことがバレる前からずっと望んでいた。 仕事仕事で私を顧みない酷い夫。 出張出張で家に寄り付きもしない夫。 会えば会ったでニコリともせず、同じ空間にいるのに私のことなど居ないかのように振る舞う夫。 他の誰かを求めるのは必然。 寂しさを身体の温もりで満たす行為に溺れた。 夫とは見合い結婚だった。 最初から気難しい感じで好きになれなかったけど、金持ちだし顔もイケてるし、慣れれば歳上の包容力で甘やかしてくれるだろうと、自分から押しに押して結婚にこぎつけた。 結果、私は幸せになれなかった。 夫は甘やかしてくれない。 好き放題させてくれるけど、勝手にすればいいという態度を崩さなかった。 誰と寝ても気にしない。 誰と遊んでも咎めない。 やり過ぎたら少し嗜められる程度。 夫が私を愛することは、どんなに待っても来なかった。 こんな生活は嫌。 金持ちでもイケてても、相手にしない、居るか居ないか分からない夫など要らないわ。 不満は爆発寸前。 愛に飢えていた私は、たまたま知り合った同い年の男を逃げ道にした。 最初は軽い遊び。 相手は既婚者で、私と遊びながら妻が一番だなんて平気で言ったりするけれど、気にしなかった。 それがやがて、積もり積もった不満の上に重ねられていく。 私は幸せじゃない。 誰も私を一番にしてくれない。 夫も、この男も、前の前の男達も。 幸せな家庭が憎かった。 遊びに明け暮れる夫を待つ妻は、何も知らず変わらない幸せを信じている。 歪な優越感が沸く。 その幸せは偽物よ。  貴女達の夫は妻に愛を囁きながら、家庭を守りながら私に腰を振りたくっている。 綺麗だと、素敵だと、甘い睦言を繰り返しながら。 でもこの男は言わなかった。 遊びと割り切り、身体は重ねるけれど愛は口にしない。身体を重ねない時だけ可愛いと言う。 それに、心が疼いた。 本当の私を見てくれるんだと、快楽以外のものでちゃんと私を判断しているんだと。 好きになるのに時間はかからなかった。 この男に真に愛されたなら、どれだけ幸せなんだろう。欲しい。貴方が欲しい。貴方との子が欲しくなった。 決定的なものを成せば手に入る。 悪魔の囁きはストンと胸に落ち、危険日に穴の開けた避妊具で行為に及んだ。 私は勝った。 幸せをもぎ取れた。 奥さんが享受していたものを奪い取れたのだ。 高笑いが止まらない。 元夫が離婚の理由を「愛のない結婚はやめにしたい」と口にした時、私もよと叫び返してやったわ。 私は幸せ、幸せよ。 少し浮かない表情の彼も、何かを探すように視線を彷徨わせる様子も、今だけ、今だけだから。 子供が産まれる頃には、私と共に愛してくれるはずなんだもの。 そうじゃないと、おかしいもの。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

466人が本棚に入れています
本棚に追加