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追加エピソード その後の香織
「君との結婚生活を終わりにしたい」
夫に子供のことがバレる前からずっと望んでいた。
仕事仕事で私を顧みない酷い夫。
出張出張で家に寄り付きもしない夫。
会えば会ったでニコリともせず、同じ空間にいるのに私のことなど居ないかのように振る舞う夫。
他の誰かを求めるのは必然。
寂しさを身体の温もりで満たす行為に溺れた。
夫とは見合い結婚だった。
最初から気難しい感じで好きになれなかったけど、金持ちだし顔もイケてるし、慣れれば歳上の包容力で甘やかしてくれるだろうと、自分から押しに押して結婚にこぎつけた。
結果、私は幸せになれなかった。
夫は甘やかしてくれない。
好き放題させてくれるけど、勝手にすればいいという態度を崩さなかった。
誰と寝ても気にしない。
誰と遊んでも咎めない。
やり過ぎたら少し嗜められる程度。
夫が私を愛することは、どんなに待っても来なかった。
こんな生活は嫌。
金持ちでもイケてても、相手にしない、居るか居ないか分からない夫など要らないわ。
不満は爆発寸前。
愛に飢えていた私は、たまたま知り合った同い年の男を逃げ道にした。
最初は軽い遊び。
相手は既婚者で、私と遊びながら妻が一番だなんて平気で言ったりするけれど、気にしなかった。
それがやがて、積もり積もった不満の上に重ねられていく。
私は幸せじゃない。
誰も私を一番にしてくれない。
夫も、この男も、前の前の男達も。
幸せな家庭が憎かった。
遊びに明け暮れる夫を待つ妻は、何も知らず変わらない幸せを信じている。
歪な優越感が沸く。
その幸せは偽物よ。
貴女達の夫は妻に愛を囁きながら、家庭を守りながら私に腰を振りたくっている。
綺麗だと、素敵だと、甘い睦言を繰り返しながら。
でもこの男は言わなかった。
遊びと割り切り、身体は重ねるけれど愛は口にしない。身体を重ねない時だけ可愛いと言う。
それに、心が疼いた。
本当の私を見てくれるんだと、快楽以外のものでちゃんと私を判断しているんだと。
好きになるのに時間はかからなかった。
この男に真に愛されたなら、どれだけ幸せなんだろう。欲しい。貴方が欲しい。貴方との子が欲しくなった。
決定的なものを成せば手に入る。
悪魔の囁きはストンと胸に落ち、危険日に穴の開けた避妊具で行為に及んだ。
私は勝った。
幸せをもぎ取れた。
奥さんが享受していたものを奪い取れたのだ。
高笑いが止まらない。
元夫が離婚の理由を「愛のない結婚はやめにしたい」と口にした時、私もよと叫び返してやったわ。
私は幸せ、幸せよ。
少し浮かない表情の彼も、何かを探すように視線を彷徨わせる様子も、今だけ、今だけだから。
子供が産まれる頃には、私と共に愛してくれるはずなんだもの。
そうじゃないと、おかしいもの。
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